内科学 第10版 「電撃傷」の解説
電撃傷(生活・社会・環境要因)
電撃傷は生体の体表,体内を電気が通電し起こる損傷の総称をいう.したがって,電流そのものの通過による組織の傷害のみならず,通電後の衣服の着火による熱傷や,感電後の転落,転倒に基づく二次的外傷も含まれている.
原因・分類
電撃(electric shock)による傷害は,原因により電撃傷と雷撃傷に分類される.電撃傷は年間に約2400人の入院があり,1500人が死亡する死亡率の高い損傷である.多くが電気就労中の事故であり変電所や送電ケーブルに流れる1000 V以上の高圧電流による傷害(重症)と家庭用に用いられている1000 V以下の低圧電流による傷害(軽症)の2種類に分類される.一方,雷撃傷(lightning injury)は雷による傷害の総称をいう.
病態生理
人体を電気が通電(感電)する場合,影響を与える因子として,①電流量,②電圧,③通電時間,④体組織の電気抵抗値(骨>脂肪>腱>皮膚>筋肉>血管>神経の順に高い)がある.高電圧,高電流,高抵抗,長時間通電では,生体に高いジュール熱を発生し組織傷害が発生する.電撃傷はこのジュール熱による組織の変性傷害・壊死が組織の病態の本態である.電撃は接触した入口部の皮膚に,電気の通過による傷害(熱傷)を起こしたのち,より抵抗の低い神経,血管,筋肉を通過,そこで組織傷害を発生し,出口部から接地する.その結果心室細動などの致命的な不整脈,急性腎不全,神経系障害,筋骨格系障害が生じる.
一般に低電圧での事故は家庭内で最も頻度が多く(100 V,50~60 A),電気コンセントや電気製品のケーブルを噛む事故によって乳児や小児に起こりやすい.低電圧では電気のスパークなど表層皮膚の浅い熱傷が多い半面,筋痙攣,神経麻痺によって,電源からの離脱ができなくなり(膠着電流),障害が重症化したり心室細動を発生することも少なくない.逆に高電圧での事故は,高電圧を用いる工場,変電所,高圧電線などの電気作業中の事故が多く,皮膚表層のみならず皮下の神経,血管,筋肉の傷害を伴う.特に心筋への通電は心室細動を引き起こし致死的である.一般に10 mAの通電は筋攣縮を引き起こし,50~100 mAでは呼吸筋麻痺や心室細動などを起こすといわれている.またアーク放電によって跳ね飛ばされると外傷を受けることがあるが,この場合,通電時間が短いため,熱傷そのものは浅いものが多い.しかしこのアーク放電が大規模となると,電紋(図16-1-16)という体表に電気にスパークの跡に伴った皮膚の樹枝状熱傷が起きる. 高電圧では接触部(入口部),接地部(出口部)で電流密度が高く,皮膚に電気入口部でエネルギーが一点に集約され,高熱を発生し皮膚の炭化,凝固壊死が起こる(図16-1-17).これを電流斑という.
一方,雷が原因となる雷撃傷では,落雷など,何万Vといった,ごく短時間にきわめて高い電圧の電流が流れるため,致死的になる.実際は雷撃傷の電流の多くは体表を流れるため,体内の深部損傷は少なく,鼓膜の破裂や爆風による外傷または体表の浅達性Ⅱ度熱傷を認める.しかし,落雷の場所によって生命予後が異なるといわれ,頭部に通電すると脳神経麻痺による一過性意識障害や脊柱管通電による雷撃傷性神経麻痺といわれる神経障害が残ることがある.胸部への通電は心室細動や呼吸停止を起こすことがある.
臨床症状・診断
重症度と緊急度に応じた診断と治療を行う.電撃症の場合,緊急度・重傷度の高い合併症が,心室細動の発生である.そのために心電図のモニタリングを開始する.気道(A),呼吸(B)の確認,循環(C),除細動(D)といった外傷と同様のプライマリ ABCDを行ったのち,ショックの有無を確認し,さらに全身の詳細な観察を行う.特に腎不全の合併,全身の神経障害の有無,筋傷害の有無をすばやくチェックする.通電時の転落や衝撃によって起こる副損傷(多発外傷)の合併に注意する.並行して体表の創,電撃傷の入口部,出口部の確認,熱傷部分の確認,電紋や電流斑の確認,また,通電した原因・電圧と時間などの損傷局所の情報を入手する.これらの情報入手ののち,全身の身体所見をとる.
一般的に血液検査では白血球の上昇,ヘモグロビン値の低下,生化学的検査所見としてはASTの上昇,特に筋傷害の指標としてCPK(MB,MM双方)の上昇,LDHの上昇をみる.尿は筋崩壊によるミオグロビン尿の合併をみることが多く,尿の色調はポートワイン状に変化する.
治療
治療は全身管理と局所管理に大別される.全身管理で最も優先されるのが心肺蘇生である.
1)心停止(心静止,心室細動)の場合:
心静止,心室細動の場合はまず電気的除細動を含めた心肺蘇生を開始する.心筋のダメージが存在するため心肺蘇生に成功しても循環動態が安定するまでは持続モニタリングが必要である.また,心電図上不整脈がある場合も48時間まで継続モニタリング下に抗不整脈薬の投与を行う.必要に応じて人工呼吸管理,胃管による胃内トレナージを2日間行う.
2)輸液療法:
電撃傷では体表の熱傷に加えて,皮下組織や筋組織の傷害によって大量の組織外液が失われ,乳酸化リンゲルの補充が必要となる.中心静脈ルート確保の後,CVPモニタリング下で尿量を0.5~1.0 mL/kgを保つべく輸液を増減する.ミオグロビン尿が認められる場合,急性尿細管壊死を起こす可能性が高いと判断され,腎不全予防のために尿量を1.0~2.0 mL/kg/時間とやや多目に維持するよう輸液を増減する.
3)局所治療(含外科治療):
電撃傷で最も大事なのが局所創の治療である.原則として温熱熱傷の処置と同様に,深達性熱傷ではスルファジアジン銀クリーム(ゲーベンクリーム)に,浅達性熱傷では抗菌薬含有軟膏を用いる.
高圧電流では受傷後2週まで進行性に筋壊死や血行障害が進む.この壊死に対し皮下組織の筋層デブリドマンや減張切開,筋膜切開が数週にわたって必要になる.この進行性壊死は予後ときわめて大きく関係するので専門医のコンサルテーションを受けるべきである.
4)リハビリテーションと機能障害:
重度の電撃傷患者ではたとえ生存したとしても長期間のリハビリテーションが必要となる.末梢神経障害の対処をしつつ,早期からの離床と関節可動域の保持が重要となる.
5)予後:
早期の合併症としては,心筋障害や大動脈内障害,大動脈破裂または内臓血管の破裂などが起きる.不整脈は10~13%のケースに認められる.一方,遅発性中枢神経症状として6~9カ月後に突然,半身麻痺や脳幹損傷を認めることがある.末梢神経障害は受傷後から3年くらいまでは出現する可能性がある.また末梢神経障害に加え多彩な神経症状を呈する.さらに,ゆっくりと進行する白内障もしばしば受傷後数年を経て出現する合併症である. いずれにしても重症の電撃傷の患者では長期の綿密な経過観察が必要である.[田中秀治]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報