電流が生体を流れることによって起こる生理的変化。感電によって生ずる損傷を電撃傷electric injuryという。電撃傷には,電流が生体を流れて起こる損傷と,アークまたはスパークが生体に当たって起こる火傷とがある。後者は落雷や工場災害で多く発生し,骨が溶けるほどの高温(約2500℃)のため,深い火傷となる。前者は家庭用電灯線(100V)でも起こるが,多くは高圧送電線や工場内配線(数千~数万V)で起こり,直流よりも交流のほうが起こりやすい。
損傷の程度は,電流の強さ,通電時間,電流の通路によって決まる。肌にぴりぴりと電気を感ずる最低限の電流は,直流で5mA,60Hzの交流で1mAといわれ,筋肉が痙攣(けいれん)して呼吸麻痺が起こるのは,それぞれ90mA,20mAといわれている。体表では,乾燥した皮膚が最も電気的抵抗が高く,手から足まで16~18kΩあるため,オームの法則(電流=\(\frac{電圧}{抵抗}\))から,
100Vの電圧では致死的ではない。しかし湿潤した皮膚では抵抗は1/10以下となり,50Vでも危険となる。生体内の電気的抵抗は,骨がいちばん高く,以下脂肪,腱,皮膚,筋肉,血管および神経の順に低くなる。ちなみに口腔粘膜から肛門までの粘膜では1kΩしかない。したがって安全な電圧を明確に求めるのは難しいが,いちおう24Vが安全限界とされている。
電流はいったん体内に入ると,筋肉に沿って流れやすく,このため筋肉の痙攣と壊死を起こし,骨が折れたり,壊死変性した筋肉の老廃物が腎臓で排出しきれずに腎不全を起こしたりする。また深部の血管の中で血液が固まり,血流が止まって組織が壊死に陥ったり,血球が壊れて貧血になったりする。これらの変化は受傷後1~2日に出現してくるため,電撃傷は受傷時の外見よりも重症であることが多い。電流の出入口に当たる皮膚には,通常赤く充血した皮膚に囲まれた灰黄色の陥凹(電流斑)や,表皮剝離(はくり),潰瘍などが認められるが,低電圧で接触時間が短いと存在しないことも多い。流入部に導体由来の金属が証明されることもある(めっき現象または金属化現象)。また感電時,強いショックによって一次性ショックを起こす場合がある(電撃ショック)。電流が脳幹を通過すると呼吸麻痺により,心臓を通過すると心室細動により,ショック死する。これを感電死または電撃死というが,これを法医学的にみた場合,自殺と電気作業中の事故死が多く,他殺はほとんどない。
治療は,まず電流を遮断し,皮膚に対しては火傷の治療と同様に対処する。破壊された筋肉はなるべく切除する。一次性ショックに対しては一般のショックに対する療法を,呼吸麻痺や心室細動に対しては人工呼吸や心臓マッサージをできるだけ長く行う。はね飛ばされ,または墜落によって受けた外傷があれば,その治療も併せて行う。
電撃傷はちょっとした注意によって予防できる。家庭においては,ぬれた手で電気器具を操作しない,通電中の電気器具をぬらさない,コンセントは乾燥した場所に設置するなどであり,戸外においては,切れた電線に注意する,落雷の危険のある場所を避けるなどが,予防となる。また,労働災害の予防も重要である。
執筆者:小野 美貴子+若杉 長英
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
電気充電部に人間または動物の生体が接触し、生体内に電流が流れる現象。直接生体に加わる電圧を接触電圧といい、この電圧の高低により電流量に差が生じ、生体への反応も変化する。接触電圧は、充電部の電圧の高さとともに、生体が置かれた電気的環境により、電撃(感電によって受ける衝撃)となって大きく影響する。たとえば、乾燥した状態で皮膚面の電気抵抗が高くなっているときや、大地との間に絶縁性の大きな履き物をつけた場合などでは、生体に加わる接触電圧は低くなって電撃は小さいが、はだしで湿気のある大地に立ったり、ぬれた手で充電部に触れたときは、充電電圧に近い接触電圧となり、電撃も激しくなる。
電撃による傷害には個人差があるが、10ミリアンペアで痛みを感じ、20ミリアンペアでは筋肉が激しく収縮し、50ミリアンペアを超えるとやけどを生じて感電死することもある。生体が充電部に接触した部分と大地にアースした部分により、電流が体内を通過する部位が異なり、傷害の程度に差が生ずる。とくに心臓に電流が通過したときは、死亡率がきわめて高く危険である。
電気施設では、できるだけ生体が充電部に触れないような注意が払われている。電気関係法規でも、感電による災害防止に重点が置かれ、それぞれ場所によって使用電圧にも制限が設けられている。
[越野一二]
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