電気標準(読み)でんきひょうじゅん(その他表記)electrical standards

改訂新版 世界大百科事典 「電気標準」の意味・わかりやすい解説

電気標準 (でんきひょうじゅん)
electrical standards

電気の諸単位定義に従って実験によって決定し,その大きさを物の形で現示し,測定の基準として使用されるものが電気標準または電気標準器と呼ばれる。抵抗,電圧,容量,インダクタンスの標準器と交直比較器が基本的な標準器である。

1Ωを基準とし,10⁻4~108Ωまではマンガニン,Ni-Cr-Al抵抗線をインダクタンスの少ないように巻いて作られ,温度による抵抗変化は20℃で10⁻5~10⁻6/℃で,抵抗値が安定となるよう焼きなましを加え,容器に密閉したものである。通常1対の電圧と電流端子を有する図1-aの4端子構造で,電圧端子の電圧Vと電流端子に入る電流Iの比,すなわちV/IRを抵抗値と定義する。電流端子の抵抗の影響の少ない場合は電流電圧端子を共通とした2端子構造をとる。109~1014Ωではカーボンコンポジョン皮膜をガラス封入したものを,さらに金属容器に入れ,ガード端子Gをもつ図1-bの3端子の構造とする。

E.ウェストンによって1892年に発明されたカドミウム標準電池が電圧の標準として用いられる。電解液として用いる硫酸カドミウム溶液の飽和度により飽和形と不飽和形,液の酸性度により,中性電池,酸性電池に分けられる。不飽和形は温度係数が小さいが,やや不安定である。精密な目的には酸性飽和形電池が用いられ,20℃の起電力1.01864V,20℃の一次温度係数は-40μV/℃である。通常一定温度の油槽または空気槽に入れて使用する。使用法としては電流をとらない零位法で未知の電圧と比較する。標準電池に代わるものとしてツェナーダイオードの逆方向なだれ特性を利用し,これを定電圧源として,電子的増幅器を併用し0~1000Vの標準電圧発生器が作られている。回路の変更により標準電流発生器ともなる。一方,ジョセフソン効果を利用したジョセフソン電圧標準が標準電池の精密な校正に用いられる。

容量の標準として用いられるもので,寸法測定により絶対値を決定するクロスキャパシターによって値付けされる。通常多端子構造をもち,小容量(1nF以下)では3端子,中容量(μF程度)では2端子,大容量(1mF以上)では4端子となる(図2)。特性としては温度係数,損失係数,電圧係数が小で安定,かつ広い周波数範囲で容量値が一定なものが望ましい。小容量には溶融水晶の板または管,空気またはガス封入の平行平板を用い,中容量にはシルバードマイカ,ポリエチレン,ポリスチロールフィルムなどを極板間にはさんで用いる。0.1F程度の大容量には,電解コンデンサーが用いられる場合もある。また平行平板の場合,電極の回転により可変の標準コンデンサーが得られる。

インダクタンスの標準として用いられるもので標準誘導器とも呼ぶ。自己および相互インダクターがある。通常,大理石セラミックス,ガラス,プラスチックの円筒またはトロイダルコアに銅線を巻いたものである。自己インダクタンスの場合は単一巻線,相互インダクタンスの場合には一次,二次の巻線がある。インダクタンスは周囲に強磁性体があると磁気が乱れその値が変化するので,強磁性体を遠避けて測定することが望ましい。

交流の電流,電圧の単位は実効値が直流の値と等しい場合,直流と同一の単位を使用する。この比較に使用するものが交直比較器である。ヒーター線に熱電対を絶縁物を介して接触させ,真空中に封入したものが真空熱電対である。電流による抵抗線の発熱,温度上昇を熱電対を通して直流電圧に変換するもので,等しい熱起電力が得られるとき,交流の実効値は直流の値に等しい。この真空熱電対を容器に封入したものが交直比較電流標準器,直列抵抗を併用したものが交直比較電圧標準器で,交流電流,電圧標準の値付けおよび測定に使用される。上記の基礎的標準器のほか,0.2級の標準電流計,標準電圧計,電力計は一般の指示計器の校正用標準器として用いられる。また精度が高く他の電気計測器の校正に用いられるものを広義の電気標準器と呼ぶ。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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