電気通信網(読み)でんきつうしんもう(英語表記)electrical communication network

改訂新版 世界大百科事典 「電気通信網」の意味・わかりやすい解説

電気通信網 (でんきつうしんもう)
electrical communication network

電気通信を行うためには,伝達すべき原情報を電気信号に変換する通信端末装置,変換した電気信号を伝達する伝送路,通信相手までの接続経路を設定したり,その通信に付随するいろいろな通信サービスを実行する交換機の3種類の装置が必要である。これらの装置は互いに有機的に結合されてネットワークを構成している。このネットワークを電気通信網という。図1に電気通信網の基本構成を示す。

電気通信網にもいろいろな種類があり,またいろいろな立場から分類することができる。表は電気通信網の分類の一例である。

 電気通信網が運ぶ情報の内容から分類すると,会話音声の伝達を主目的とする電話網,文字や数字の記録通信を行う電信網,データ情報の伝達および処理を行うデータ通信網,画像情報の伝達を目的とする画像通信網などに分類することができる。

 サービスの対象から分類すると,不特定多数の公衆を対象とする公衆通信網,有線放送電話システムやCATVのようにある特定の地域の人々を対象とする地域通信網,特定の事業体などが専用的に使用する専用通信網,船舶,列車,自動車などの移動体を対象とする移動体通信網,軍用通信を対象とした軍用通信網などに分けることができる。

 電気通信網を規模の大きさから分類すると,特定の事業体内部の通信連絡を主目的とする構内通信網,市内区域の通信を対象とした市内通信網,多数の市内通信網相互間のトラヒックを運ぶ全国的規模の市外通信網,さらに国際間の通信連絡を行う国際通信網などに分けることができる。通常これらの通信網は階層構成的に積み上げられた形で相互接続されており,一つの大きな電気通信網を形成するのがふつうである。

 回線選択や接続ルートの設定など,通信網を具体的に制御し運用する装置が交換機である。この交換制御の仕方によっても通信網の形態や機能は大きく変わってくる。交換動作によって発着両端末間に1条の通信回線を設定し,通信中は両端末にその回線を専有させるようにした方式を回線交換網という。回線交換網では発着両端末は通信が終わるまで割り当てられた回線を自由に使用できるので,情報伝達遅延が少ない即時的な通信,必要なときにすぐ返事がもらえる会話形の通信,信号波形を忠実に伝送するアナログ波形情報の通信などが容易に行えるのが特徴である。電話網は回線交換の代表例である。

 これに対して,発着両端末間に直接的な回線は設定せず,通信情報を各交換点ごとにいったん蓄積してから改めて転送する操作を繰り返しながら情報伝達を行う方式を蓄積交換方式といい,データ通信などではこの種の交換方式が多く使用されている。各交換点で通信情報の蓄積を行えば,伝送路が混雑したときには待合せをさせることができるので伝送路の高能率運用が可能になること,伝送誤りが起きたときには蓄積してある情報を再送することができるので信頼性の高い情報伝達ができること,蓄積した情報を変換しながら転送することもできるので多彩な通信処理や情報処理を行うことができ,したがっていろいろな通信サービスが実行可能になることなど,多くのすぐれた特徴を発揮させやすくなる。

 電気通信網を通信情報の伝送方法から分類すると,情報をアナログ形式で伝送するアナログ通信網と,ディジタル符号形式で伝送するディジタル通信網とに分類することができる。電話のような原情報がアナログ信号の場合でもパルス符号変調PCM)などによりディジタル信号に変換して伝送することが可能である。ディジタル化すると安定で信頼性が高い通信網を経済的に構成することが可能になる。また,音声,データ,画像など,いかなる情報もいったんディジタル化してしまえば同等の技術で一括して扱うことができるので,多彩な通信サービスを一体的に処理する融通的な通信網が構成可能になる。さらに,少し見方は異なるが,伝送路に光ファイバーケーブルを用いる光通信網や衛星を用いる衛星通信網などもあり,これらは今後の発展が期待されている通信網である。

電気通信システムは通信端末,伝送路および交換機から構成されるが,図2は代表的な電気通信システムの構成例である。通信端末は加入者線と呼ばれる伝送路を通じて交換機に収容されている。交換機はダイヤル情報などにより,相手局に向かう中継方路を選択し,空き回線を選んで回線接続を行う。伝送系は同軸ケーブルや平衡形ケーブルなどの有線伝送路や,マイクロ波通信方式を用いた無線伝送路などからなる。長距離伝送回線では通信情報を変調多重化して伝送路を効率的に使用する搬送多重通信システムが使用されている。その多重度は用途に応じて電話換算で24多重程度のものから2万多重程度の大容量多重通信方式まで,さまざまな方式が使用されている。

 通信端末装置は伝達すべき情報を電気信号に変換する装置である。これにはダイヤル回路のような着信端末の宛先指定回路など,通信網制御のための信号回路も付加されている。通信端末には目的に応じていろいろな種類がある。電話機は音響信号と電気信号の間の変換を行う通信端末である。データ通信端末はデータ情報を電気的な符号に変換するキーボード,受信符号を印字するプリンター,それを表示するディスプレー装置などからなる。画像通信端末にはブラウン管液晶ディスプレーなどを用いた映像通信端末や,静止画像の記録通信を行うファクシミリ端末などがある。

 伝送路を大別すると有線伝送路と無線伝送路に分けることができる。比較的近距離の伝送系には2本の針金をよって作るより対線を数十対から数千対束ねて構成した平衡形ケーブルがよく使われている。長距離系には周波数帯域幅の広い同軸ケーブルが用いられる。同軸ケーブルを用いると搬送多重化した広帯域の通信情報が容易に伝達でき,経済的な伝送系が構成できるからである。光ファイバーケーブルも有線伝送路の一種であり,より広帯域の通信情報も低損失で効率的に伝達可能になる。無線方式には広帯域で雑音が少なく,安定な伝搬特性をもったマイクロ波通信方式が広く活用されている。これには数十km間隔に中継所を置いた陸上通信方式のほかに,人工衛星を中継所とする衛星通信方式もある。衛星通信方式は国際通信だけでなく,国内通信にも用いられている。

 交換機には電話交換,電信交換,データ交換,画像交換,およびこれらを総合化したISDN交換など,目的に応じていくつかの種類があるが,通信網における交換機の役割はおよそ次のように考えてよいであろう。第1は通信端末や中継伝送回線間の切換接続を行うスイッチング機能である。第2は通信網内の中継接続ルートを効率的に選択したり,障害時や異常トラヒック発生時においてトラヒック規制を行うなど,通信網を適切に運用管理するための通信網制御および管理機能である。第3は短縮ダイヤル,転送サービス,会議接続などの各種交換サービスや,データ通信,画像通信,移動体通信などに付随する各種の通信サービスを実行する通信サービス機能などである。

電気通信網の構成形態は目的や用途に応じていろいろなものがあるが,ここでは代表的な二,三の例を紹介する。市内電話網のように比較的に近距離の通信網は図3のように構成されることが多い。端末の数や地域的な分布に応じていくつかの交換機が設置され,加入者線を通じて端末が接続される。各交換機の間は局間中継線と呼ばれる伝送路で結合される。この例では局間中継線は各交換機間にそれぞれ直通に配置した例が示されているが,このような回線網形態を網状回線網という。また,端末を収容している交換機を加入者線交換機といい,加入者線交換機が設置されている交換局を端局と呼んでいる。図4は日本の市外電話網を想定してかいた市外通信網の構成例である。規模の大きい通信網では交換局数が多くなるので,各局を直通的に結合する網状回線網では局間中継線のルート数が多くなって効率的なトラヒック処理はむずかしくなってくる。そこで中継交換機を導入してトラヒックを集束し,大群化を図る必要がある。大群化とは一つの中継回線をなるべく多くの人に共用できるようにすることであり,これにより中継回線の使用能率を大幅に改善することが可能になる。これを大群化効果という。この例ではまず全国を総括局区域と呼ばれるいくつかの大区域に分割し,その区域を管轄する総括局と呼ばれる中継交換局を配置する。次に総括局区域をいくつかの中区域に分けて中心局と呼ばれる中継交換局を配置する。さらに中心局区域を細分して集中局と呼ばれる中継交換局を配置する。端末を収容する端局は各集中局の下位に配置されている。このようにして交換局配置が定められると,下位局は直属する上位局に中継回線で結合され,その結果は図4の実線で示したような回線網となる。この回線網は星状に積み上げられた形態をなしていることから階層構成の星状回線網という。また,この星状回線網は通信網のベースになることからその中継回線を基幹回線と呼んでいる。集中局,中心局,総括局などの中継交換機はそれぞれ下位からの中継回線を集めて大群化を行い,伝送路の使用効率を高める機能をもっているが,局間トラヒックがもともと多い中継区間では大群化効果の飽和特性によってその必要性は少なくなってくる。このような中継区間では多段の中継接続を必要とする基幹回線のみでトラヒックを処理すると交換コストが増大し,かえって不利になってくる。そこで局間トラヒックが多いところには図4の破線で示すようなバイパスルートともいうべき直通回線を設置する。このような中継回線を斜回線という。一般に電気通信網は星状構成の基幹回線と,部分的網状構成ともいうべき斜回線の組合せからなっていることが多く,このような回線網を複合回線網と呼んでいる。図4には4階層の通信網構成が示されているが,光ファイバーの普及によって伝送コストが低減したこと,ディジタル交換によって大型の交換機が経済的に実現できるようになったことなどの理由で,中継交換機は次第に整理統合化されつつある。図5は構内あるいは限定された地域内で使用されるローカルエリアネットワークLANの構成例である。図のaは1条の伝送路を多くの端末で共用させたバス状ネットワークである。伝送路は時分割多重使用したり,あるいはパケット通信技術を用いて時間的に共用する。ノードは端末と伝送路間の切換接続を行う分岐挿入回路である。bは伝送路を環状に構成したリング状ネットワーク,cは樹枝状に構成したツリー状ネットワークである。これらの通信網は現在企業内のコンピューターや情報処理端末間を接続するコンピューターネットワークや,CATVなどの地域映像情報ネットワークなどに使用されている。

上記のように電気通信網にはいろいろな種類があり,その目的,規模,性格などもさまざまであるが,通信網を形成するうえでもっとも基本となる設計条件は次のように考えてよいであろう。

 第1は接続の任意性である。対象地域内の各通信端末は特別に制限されていない限りどの端末とも自由に相互接続できることが必要であり,この要求を満たすように回線網や交換機能を設計する必要がある。第2は接続の迅速性である。接続はなるべく速やかに行われ,またその選択は通信端末から直接に指定できるように制御されることが望ましい。これには端末・交換機間,交換機相互間の制御信号のやりとりのしかた,すなわち信号方式が関係する。第3は情報伝達の透明性である。透明性とは情報の種類や性質にかかわらず,いかなる情報をも自由に伝達できるその自由さの度合を表すものであるが,そのためには交換系,伝送系は伝達すべき通報内容にはなるべく制限を与えない方式に設計されていることが望ましい。第4は通信品質の一様性である。どの場所から発信される情報に対しても,優先権などの特別な区別が与えられていない限り,なるべく同等な接続品質,伝送品質,あるいはその他のサービス品質が維持されなければならない。そのためにはあらかじめ提供すべき品質基準を定め,合理的に定められた設計基準に基づいて系統的な通信網設計を行う必要がある。第5が信頼性である。通信網は情報化社会の根幹をなすべきものであるから,正確で安定な通信が行えるように,通信網の信頼性を十分に確保しておく必要がある。これは装置の信頼性のみならず,システムの二重化や伝送路の多ルート化などの通信網の冗長構成や,障害処理や点検修理などの保守体勢にも万全なる対策を立てておく必要がある。第6が融通性の維持である。トラヒック変動や過負荷などに対して十分なる耐力をもったネットワーク構成であること,および通信網の改変,拡張に対しても柔軟に対処できることなど,周囲条件の変化に追随しうる融通性が重要である。第7は番号体系の統一性である。番号体系は統一的で使いやすく,しかも長期にわたり変更を要しないものであることが必要である。第8は合理的な料金体系である。料金体系は合理的でわかりやすく,しかも課金が容易に行える方式であることが望ましい。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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