(読み)しおる

精選版 日本国語大辞典 「霑」の意味・読み・例文・類語

しお・る しほる【霑】

〘自ラ下二〙
① 濡れてうるおう。しめる。
書紀(720)仁徳七年四月(北野本室町時代訓)「宮垣(みかき)(やふ)れて脩(をさむる)を得ず、殿屋(おほとの)破て衣被(ふすま)(つゆにシホル)なり」
② 濡れて塩けを帯びる。また、濡れて汚れる。濡れて弱る。
※金槐集(1213)冬「ふりつもるゆきふむいそのはまちどりなみにしほれてよはになくなり」
③ 泣くことをいう女房詞
※東大本女中詞(1716‐36頃)「しほるる、むつかる 啼事」
④ (能楽論や連歌論で) しっとりとしてうるおいのある趣きが自然ににじみ出る。
連理秘抄(1349)「詞ききの句は、いかにもしみじみとしほれたるやうにて、付けよく面白くおぼゆる也」
[補注]「しおお(しほほ)」、「しおたれる(しほたる)」などとの関連が考えられる。従来「(袖・袂の涙を)しぼる(絞)」と解されていたものの少なくとも一部は「(涙で袖・袂を)濡らす」の意で、「しほる(霑)」の用例と見なすべきだとする説が有力になっている。

しおり しほり【霑】

〘名〙 (動詞「しおる(霑)」の連用形の名詞化。「しをり」と書かれることも多い)
① しおしおとあわれ深い感じを催させること。しみじみともののあわれを感じさせること。また、そのようなもの。
能楽で、泣くことを表現する唯一の型。面(おもて)をくもらせ(ややうつむけ)て、左、右、または両の手のひらを内側にして目の前にかざすこと。
③ (シヲリ) 謡曲で、上音から、さらに一段高い音階まで声を上げる節まわし。ただし、クリのようにくらないで上げる。金春・金剛喜多の下掛(しもがかり)三流にみられる。しおりぶし。
俳諧で、蕉風の完成期に芭蕉が説いた美的様相の一つ。句の趣向、用語、素材があわれなものをいうのではなく、しみじみとした哀感が句の姿に余情として表われているのをいう。ただし、支考後世蓼太などにいたっては、付合(つけあい)についていい、前句の余情をたどって付けることと理解していた。
※俳諧・青根が峯(1698)答許子問難弁「さびは句のいろに有、しほりは句の余勢に有」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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