余情(読み)ヨジョウ

デジタル大辞泉 「余情」の意味・読み・例文・類語

よ‐じょう〔‐ジヤウ〕【余情】

あとまで残っている、印象深いしみじみとした味わい。よせい。「旅の余情にひたる」
詩歌などで、表現の外に感じられる趣。特に、和歌連歌俳諧などで尊重された。よせい。
[類語]おもむき風情気韻風韻幽玄気分興味内容興趣情趣情調情緒風趣風格余韻詩情詩的味わい滋味醍醐味だいごみ妙味雅味物の哀れポエジーポエティックポエトリーロマンチックメルヘンチックリリカルセンチメンタルファンタジックファンタスティック幻想的夢幻的神秘的ドリーミー感傷的

よ‐せい【余情】

[名・形動ナリ]
よじょう(余情)」に同じ。
勅使は花の都人、もてなしに―うすし」〈浄・本朝三国志〉
同情のおこぼれ。また、わずかな謝礼
「わづかな弟子衆の―や、わが身の働きで」〈浄・河原達引
《「僭上せんじょう」を「せじょう」と略し、同音の「世情」の字を当て、それをさらに湯桶ゆとう読みをしたものの当て字という》体裁を飾ること。みえを張ること。また、そのさま。
「―なる商ひばなし」〈浮・諸艶大鑑・三〉

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精選版 日本国語大辞典 「余情」の意味・読み・例文・類語

よ‐せい【余情】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「せい」は「情」の漢音 )
  2. よじょう(余情)
    1. [初出の実例]「余情体 〈略〉是体、詞標一片義籠万端」(出典:忠岑十体(11C初頃か))
    2. 「盃のうけわたしさへしほらしきに、しかも恋の余情(ヨセイ)こもれり」(出典:評判記・色道大鏡(1678)二)
  3. 同情のあまり。同情のおこぼれ。転じて、わずかな謝礼。
    1. [初出の実例]「わしが此ながながのびゃうきも〈略〉わづかな弟子しゅのよせいや、わがみのはたらきで、このやうじゃうがなる物かと、思へばくすりもどくとなり」(出典:浄瑠璃・近頃河原達引(おしゅん伝兵衛)(1785)中)
  4. ( 形動 ) ( 「せんじょう(僭上)」を「せじょう」と略して「世情」とあて字をし、それを湯桶読みにしたものという(随・嬉遊笑覧(1830)) ) 体裁をかざること。みえをはること。おごりたかぶること。また、そのさま。僭上。
    1. [初出の実例]「よせいの雑談」(出典:仮名草子・犬枕(1606頃))
    2. 「声高に余情(ヨセイ)の過をはなしちらして打通る」(出典:仮名草子・東海道名所記(1659‐61頃)六)
  5. ( 形動 ) 勢いのよいこと。景気のよいこと。はなやかなこと。また、そのさま。
    1. [初出の実例]「さみせんのひきやうに、かるもがはねばちとて、よせいに、だてなるひきやうあり」(出典:評判記・吉原讚嘲記時之大鞁(1667か)かるも)

余情の語誌

( 1 )歌論用語としては、古くは、の挙例の壬生忠岑「忠岑十体」までさかのぼる。そこでは、詩的表現の本来的特質として認識されている。次いで、藤原公任の「和歌九品」では最高位・上品上の和歌には「詞妙にして余り心さへある也」の評価がある。
( 2 )「余情」を詩的表現機能として真に自覚して実践した藤原俊成は、韻律やイメージ効果による複雑微妙な情調世界を和歌表現の本質として、本歌取りや体言止めなどの技法によって構成される余情美の種々相を「艷」「あはれ」「幽玄」などと称した。
( 3 )俳諧においては、「和歌には余情といひ、俳諧にはにほひといふ」〔俳諧・十論為弁抄‐九〕とあるように、「にほひ」に繋がっていく。


よ‐じょう‥ジャウ【余情】

  1. 〘 名詞 〙 物事が終わったあとも、心から消えないその味わい。また、言語芸術などで、直接に表現されず、言外にただよう豊かな情趣。特に、平安初期以来、和歌・連歌・俳諧などで尊重される理念をいう。余韻。
    1. [初出の実例]「外見も粧もなきにより、却てその情濃やかにて、かかる閑清の所こそ余情(ヨジャウ)も深ければ」(出典:人情本・閑情末摘花(1839‐41)一)

余情の語誌

→「よせい(余情)」の語誌

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改訂新版 世界大百科事典 「余情」の意味・わかりやすい解説

余情 (よじょう)

近世までの読み癖では〈よせい〉。言語表現などにおのずからなごりとしてただよう芸術的香気や情趣。〈余韻〉などともいう。すでに中国詩論に用例を見るが,日本でも,〈其情有余〉(《古今集》真名序),〈詞標一片,義籠万端〉(壬生忠岑《和歌体十種》余情体),〈あまりの心さへあるなり〉(藤原公任《和歌九品》上品上)など,歌体の一つまたは最高の歌の条件とされ,歌論などで重視されている。平安時代,すでに〈余情幽玄体〉(藤原宗忠《作文大体》)という言葉も見えるが,〈なにとなく艶にも幽玄にもきこゆる〉(《慈鎮和尚自歌合》跋)など藤原俊成により自覚された幽玄理念や,〈余情妖艶体〉(《近代秀歌》)などという定家の和歌理念も,余情表現を本性としている。和歌,連歌,俳諧などが第一義の文学であった時代では,余情は文学表現上とくに重要な理念であり,能楽論や茶道・花道などに及ぼす影響もすくなくなかった。日本人の美意識を深く規制し,現代にまで至っているといえよう。余情表現を大きく分類すると,修辞技巧などを凝らして複雑微妙な表現を意図する方向と,〈いひおほせて何かある〉(《去来抄》先師評)など,逆に簡潔性を志し〈表現を惜しむ〉方向との二つがあった。
幽玄
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「余情」の意味・わかりやすい解説

余情
よじょう

「よせい」「あまりの心」ともいう。言外の情趣。『古今(こきん)集』序では表現と内容との間の不調和と考えられているが、壬生忠岑(みぶのただみね)の『和歌体十種(わかのていじっしゅ)』の「余情体」を経て藤原公任(きんとう)(966―1041)の『九品和歌(くほんわか)』に至り、完成された表現のもつ一属性としてとらえられる。平安末期、詩的言語についての自覚が高まり、ことばの映像や情調を意図的に重層させる手法が現れ、新古今歌風の母胎となるが、その特色を藤原俊成(しゅんぜい)(1114―1204)は「あまりの心」、藤原定家(ていか)(1162―1241)は「余情妖艶(ようえん)」とよんでいる。その後この系統の余情は、定家偽書の『三五記(さんごき)』などを経て正徹(しょうてつ)(1381―1459)、心敬(しんけい)(1406―75)に至り、最高の歌体である「幽玄体」の特色とされた。すなわち「言い残して理(ことわり)なき」表現のもつ効果であるが、一方、二条為世(ためよ)(1251―1338)は逆に平明な表現のなかに、また冷泉(れいぜい)派の今川了俊(りょうしゅん)(1326?―1420?)もありのままの描写すなわち「見様体(けんようのてい)」において、それぞれ深い感情や情調の流露することを余情とみている。その後二条派が歌壇主流となるにしたがい、為世風の説が一般的となった。

[田中 裕]

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世界大百科事典(旧版)内の余情の言及

【余情】より

…〈余韻〉などともいう。すでに中国詩論に用例を見るが,日本でも,〈其情有余〉(《古今集》真名序),〈詞標一片,義籠万端〉(壬生忠岑《和歌体十種》余情体),〈あまりの心さへあるなり〉(藤原公任《和歌九品》上品上)など,歌体の一つまたは最高の歌の条件とされ,歌論などで重視されている。平安時代,すでに〈余情幽玄体〉(藤原宗忠《作文大体》)という言葉も見えるが,〈なにとなく艶にも幽玄にもきこゆる〉(《慈鎮和尚自歌合》跋)など藤原俊成により自覚された幽玄理念や,〈余情妖艶体〉(《近代秀歌》)などという定家の和歌理念も,余情表現を本性としている。…

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