ソ連邦の作家ショーロホフの長編小説。第1巻は1928年,第2巻は29年,第3巻は33年,第4巻は40年に発表された。第1次世界大戦直前から大戦,革命を経て国内戦終結に至る10年間の激動の時代を背景に,ドン地方におけるコサック社会の生活と階級闘争,そこにくりひろげられるコサックたちの運命を雄大なスケールのもとに描き出した大河小説。主人公グリゴーリー・メレホフは豊かな感受性に恵まれた青年であるが,自己の良心の命ずるままに反革命軍と赤軍のあいだを転々としながら破局に陥る。人妻との激しい恋に生きながら,革命に翻弄される主人公の悲劇を,ドン・コサックの運命とともに描き出している。流された多量の血とおびただしい死に彩られる否定面をも含めて,ロシア革命の本質を問いかけたこの作品はソビエト文学を代表する傑作で,1965年のノーベル文学賞の対象となった作品である。
執筆者:水野 忠夫
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ソ連の小説家ショーロホフの長編小説。第1、2、3部は1928年、第4、5部は29年、第6部は33年、第7、8部は40年にそれぞれ発表され、全4巻として完成した。ドン川岸のコサックのグリゴーリー・メレホフは激しい情熱と豊かな感受性の持ち主であるが、自分自身の未来とコサックの運命とを真剣に考え、苦悩し、煩悶(はんもん)し、赤軍と白軍の間を転々とする。彼が自己に忠実であろうとして、結果としては反革命の道を突き進み、破滅してしまう悲劇を軸にして、第一次世界大戦から革命を経て国内戦に至る激動の時代に生きるコサックの歴史を雄渾(ゆうこん)な筆致で描き出した大河小説である。歴史と個人の意味を問いかけたロシア革命の叙事詩として、またスケールの大きさ、自然描写や心理描写の的確さ・細密さにおいて、レフ・トルストイの『戦争と平和』に比肩し、その伝統をもっともよく継承したソビエト文学最大の古典とみなされている。
[水野忠夫]
『水野忠夫訳『新集世界の文学31~33 静かなドン』(1970・中央公論社)』▽『横田瑞穂訳『静かなドン』全8冊(岩波文庫)』
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