音楽用語。和声学において和音を形づくる音のうち,本来の和音構成音(和声音ともいう)でないものをいう。和声外音ともいう。一般に多声音楽はいくつかの基本的な和音の連鎖に還元することができる。その際切り捨てられたすべての音が非声音声であるということもできる。逆にいえば,実際の音楽では,二つの連続する和音は非声音声によって結びつけられ,装飾されているのである。非和声音はそれが属する和音に対して不協和をなす。また,非和声音によって偶然生ずる和音を偶成和音ということがある。特定の1声部に現れるばかりでなく,複数の声部で同時に使用されて非和声音同士が和音を構成することもある。その場合,それがたとえ協和音であっても,前後の脈絡から機能上は不協和音とみなされる(仮象協和音あるいは解釈上の不協和音という)。非和声音は原則として和声音に解決される。
非和声音の分類には種々の方法があるが,一般に次の6種に分けられる。(1)経過音passing tone 二つの和音間を順次進行で埋めるもので,弱拍部に短い音で現れる。1音のこともあれば2音以上のこともあり,また全音階的にも半音階的にも用いられる。(2)補助音auxiliary tone 刺繡音,隣接音ともいう。同じ和声音の間を上または下に2度で刺繡するもの。弱拍部に使用され,2音以上のことも多い。(3)倚音(転過音changing tone,アッポジアトゥーラappoggiatura) まず強拍に置かれて2度進行で和声音に解決するもので,自由掛留音とも呼ばれる。(4)掛留音suspension 倚音が前の和音の和声音からタイで結ばれて予備されている場合をいう。(5)逸音 倚音とは逆に和声音に続いて弱拍部に置かれ次の和音に進む。和声音の進行方向と反行をなすものをエシャペéchappée,同方向のものをカンビアータcambiataということがある。(6)先取音anticipation 後続和音の和声音が前の和音の弱拍部に現れる場合をいう。
非和声音の用途は主として旋律の装飾と和音間の多様な和声的変化にある。歴史的には,すでにルネサンスの対位法において一部が旋律装飾に用いられていた。18世紀には近代和声法が確立されて和声語彙も飛躍的に増えるとともに,あらゆる非和声音の用法も定着した。19世紀に入ると,半音階的和声法の発展に伴って,ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》に代表されるような解決されない掛留や倚音の用法が盛んになるに及んで,和声音と非和声音の境界があいまいになる傾向も出てきた。これは非和声音が本来の和声音の機能を担い,それに取って代わり始めたためである。これが行き着いたところが20世紀の無調音楽にほかならない。
執筆者:土田 英三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
旋律を構成する音のうちで和声に即応しない音を総称していう西洋近代和声学の用語。これらは和声音(和声をつくりだす和音の構成音)でないために和声外音といわれることもあるが、旋律や和声を興味深いものにするためには不可欠の音であり、次にくる和音でかならず解決される。
非和声音は、その前後にある二つの和音との関係によって、通常次の6種類に分類される。ただし、その用語法は学者によって異なり、かならずしも統一されているとは限らない。(1)先取音anticipation 二つの和音のうち前の和音には不協和音程であるが、後ろの和音の構成音であるような非和声音。(2)転過音changing tone 倚音(いおん)、自由掛留(けいりゅう)、予備なし掛留、アポジャトゥーラともいう。かならず強拍または強拍とみなされる拍に置かれ、二度進行によって次の和声音に解決する非和声音。(3)逸音échappée(フランス語) 先行する和音から二度上行し、次に三度下の和声音へ跳躍進行して解決するような非和声音。(4)補助音neighboring tone 刺繍(ししゅう)音ともいう。二つの同じ和音の間にあって、その和声音のいずれかの、音階上における上下二度の音。上二度の音を上方補助音、下二度の音を下方補助音と区別してよぶ場合もある。(5)掛留suspension 和音は次に移っているのに、先行和音の一音または数音が延ばされて一時的に不協和音が生じたあとに解決するような和声進行において、その長く引き延ばされた音のことを掛留という。(6)経過音passing tone 二つの和声音の間に全音階的あるいは半音階的な橋を架け、その進行を旋律的に装飾する非和声音。
[黒坂俊昭]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…図5はT→D→T,T→S→D→Tの2種のカデンツが組み合わされた例であるが,一つの楽曲はこのカデンツが多様に組み合わされて構成されるのである。実際の楽曲においては,旋律運動をより自由にするため,本来の和音以外の音が用いられ,それを非和声音という。図6の×印は非和声音である。…
※「非和声音」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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