複数の楽音が同時に鳴らされたとき,それらが互いに溶け合ってよく調和する状態を協和といい,その音程関係を協和音程,協和する和音のことを協和音,協和しない和音を不協和音という。協和の程度は,2音間の振動数比が単純なものほど高いと考えられる。振動比が最も単純な1:1(完全1度)と1:2(完全8度)の場合を特に絶対協和音程といい,これに2:3(完全5度)と3:4(完全4度)を加えて完全協和音程という。4:5(長3度)と5:6(短3度),および3:5(長6度)と5:8(短6度)を不完全協和音程,これ以外のすべて(長・短の2度と7度,各種の増・減音程など)を不協和音程という。協和音とは原則的に協和音程だけから成る和音である。例えばドミソの和音は完全5度と長3度から成る長3和音(1:5/4:3/2),ラドミは完全5度と短3度から成る短3和音(1:6/5:3/2)である。不協和音は,部分的に不協和音程を含むもの(増3・減3和音,7の和音,9の和音など)からもっと複雑なものにいたるまで種々さまざまである。
協和から不協和への移行は漸次的なので両者の境界は必ずしも明確でなく,何を協和音(程)というのかも,時代や民族によって定義を異にする。古来,数学や音響物理学,音響心理学,音律論,音楽美学など,さまざまな角度から合理的な説明が試みられてきた。古代ギリシアでは1から4までの数で表される音程(完全1,8,5,4度)だけが協和音程と見なされていたが,これは西欧最初のポリフォニー音楽である9~10世紀のオルガヌムにも適用された。一方,長・短調の音組織に基づく調性和声法では3度が決定的な意義をもつ。イギリスでは古くから3度が愛用され,やがて大陸でも多用されるようになったが,理論的にはかなり後まで不協和音程と考えられていた。協和音程として一般に認められるのはようやく14世紀ころからで,15世紀からは事実上最も重要な音程の一つとなる。近代的な調性和声法の発展に伴って,今度はその枠内での不協和音の用法がしだいに重視されてくる。既に16世紀後半から,不協和音の緊張をはらんだ独特な性格が効果的に使われるようになった。しかし不協和音は和声法の体系にあってはあくまでも安定した協和音に導かれて緊張が解かれる(〈解決〉という)べきものと考えられ,協和音に従属するものでしかなかった。やがて不協和音の大胆な用法が発展するに及んで,それ自体で独立した存在意義を獲得するようになり,19世紀後半には解決されない不協和音も登場する。20世紀では協和・不協和という対概念そのものが意味をなさない音楽もある。
→音程
執筆者:土田 英三郎
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(1)ある一つの楽音に対し、よく調和して鳴り響く音程関係(協和音程)にある楽音。(2)協和する和音、すなわち協和和音と同義。いずれにしても、協和の概念、あるいは協和音程と密接な関係がある。この協和音程に対して、調和して鳴り響かない音程関係を不協和音程というが、音程関係はかならず協和か不協和かのどちらかに含まれるのであり、協和と不協和の対立関係は、同時に表裏一体の関係をもなしている。
この協和―不協和については、17世紀以降の西洋音楽でとくに活発に論ぜられた。そこでは、1度、8度、5度、4度の関係がもっともよく調和する音程(完全協和音程)、長短の3度と6度の関係がいちおう調和する音程(不完全協和音程)、長短の2度と7度、それにあらゆる増と減の関係が調和しない音程(不協和音程)とされた。また和音に対しても、協和音程だけで構成されているものを協和和音とよび、不協和音程を含むものを不協和和音とよんだ。
ただし、協和―不協和の観念は、人間の感覚によって生ずるものであり、時代によって、また民族によっても、さまざまな異なる様相を呈している。たとえば、同じ西洋において、近代では揺るぎない協和音程とされている3度や6度も、13世紀以前は不協和音として取り扱われていた。さらに現代の音楽理論では、協和―不協和の区分そのものが意味をもたなくなり、その概念は便宜上の名称として使用されているにすぎない。
[黒坂俊昭]
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