非財務情報(読み)ひざいむじょうほう(英語表記)non-financial information

日本大百科全書(ニッポニカ) 「非財務情報」の意味・わかりやすい解説

非財務情報
ひざいむじょうほう
non-financial information

財務情報以外の企業情報を意味する。その内容は多岐にわたる。企業情報は、財務情報と非財務情報に大きく分けられる。財務情報は、年次財務諸表、四半期財務諸表など法律規則等で作成・開示が定められており、長い期間を経て体系的・理論的に開発・利用されてきたが、非財務情報については、体系的な規範はとくにない。しかし、非財務情報も法律・規則等によるものと任意のものとに分けられる。法定によるものには、金融商品取引法や会社法などによる事業リスクコーポレートガバナンス情報、内部統制報告などの開示がある。非財務情報は、いわゆる財務以外の情報という意味で、その範囲を定義することにはあまり意味がない。また、非財務情報は、いわば財務諸表外の情報であり、財務諸表本体には記載されていない情報としてとらえられている。おもにESG(環境・社会・ガバナンス)情報が多く開示されている。非財務情報の開示が要請されてきているのは、その理由として、企業には金額的に評価できない人材、ガバナンス、信用、ブランドなどの経営資源があること、また、逆にマイナス要素である経営リスクなどがあり、それらが経営成績や財政状態に大きく影響しているが、財務情報はそれらの価値を表すことはできないからである。株主などのステークホルダーは、企業情報に関して過去の財務情報のほかに、将来の経営に影響する非財務情報を望んでいる。

 アメリカでは、早くから非財務情報の重要性を認識しており、1994年アメリカ公認会計士協会が公表した「ジェンキンス報告書」において、企業の事業報告における非財務情報が果たす役割について次のように報告している。

(1)財務諸表が示すのは企業の過去の情報であり、それに対して投資家は、企業が株主価値を将来にわたって創出する能力について関心をもっている。投資家の将来予測を容易にするような非財務情報を開示すべきである。

(2)企業の純資産と企業価値との間には、しばしばギャップがみられる。企業価値を説明する変数として、人的資源、ブランド、評判といったオフバランス(貸借対照表に計上されないもの)の「無形資産」の存在が大きくなっている。

(3)社会の諸問題の解決に対して企業が果たすことが期待される役割が大きくなっており、財務パフォーマンスとの関連性の強いCSR(企業の社会的責任)情報などは投資家だけではなくすべてのステークホルダーに対して開示されるべきである。

 したがって、これらのニーズに応じるためにも、利用者が必要とする非財務情報について企業は配慮しなければならないとする。

 現在、非財務情報として任意に作成されている報告書には、知的財産報告書、環境報告書、サステナビリティ(持続可能性)報告書、コーポレートガバナンス報告書、情報セキュリティ報告書、IR(インベスター・リレーションズ)情報、PR(パブリック・リレーションズ)情報、商品製品情報などがある。

 なお、これらの情報を個別に発信するのではなく、財務情報とそれぞれの情報を有機的に結び付けた「統合報告書」(Integrated Report)を発行する企業が増えている。さらに、非財務情報の統一的開示を促進するため、国際会計基準の設定機関である国際財務報告基準財団(IFRS Foundation)は、2021年11月に非財務情報の基準づくりに乗り出し、国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Board:ISSB)を設立した。そして、2022年3月に、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(General Requirements for Disclosure of Sustainability-related Financial Information)の公開草案を公表した。そこでは、投資家に向けてサステナビリティに関連する開示項目として、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標などを基本として、企業がさらされている重大なサステナビリティ関連のリスク・機会に関して重要性がある情報を財務情報と関連づけて開示することを要求している。具体的には気候変動に関する情報開示内容とその産業別開示内容が公表されている。今後、日本の非財務情報(サステナビリティ情報)の開示は、このISSBの基準に基づいて規制されていくものと思われる。

[中村義人 2022年11月17日]

『井口譲二著『別冊商事法務431 財務・非財務情報の実効的な開示――ESG投資に対応した企業報告』(2018・商事法務)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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