領事裁判権(読み)りょうじさいばんけん(英語表記)consular jurisdiction

精選版 日本国語大辞典 「領事裁判権」の意味・読み・例文・類語

りょうじ‐さいばんけん リャウジ‥【領事裁判権】

〘名〙 領事が駐在国で自国民を裁判する権限。治外法権の一つで、通常、関係国間の通商航海条約で定められていたが、現在は廃止されている。→領事裁判
朝野新聞‐明治二五年(1892)七月一六日「領事裁判権に関する条款の自今無効に帰したる旨を公布したり」

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改訂新版 世界大百科事典 「領事裁判権」の意味・わかりやすい解説

領事裁判権 (りょうじさいばんけん)
consular jurisdiction

領事が任地国内に居住する自国民にもつ裁判権。実際には領事以外の裁判官や外交官が裁判したり,関係国が裁判官を出しあって設けた混合裁判所で裁判することもあった。この場合,居住国の法律の適用や裁判権が排除されるため治外法権とも呼ばれた。イスラム国家では法と宗教が密着し,異教徒である外国人は法の適用をうける資格がないとされたため,初めキリスト教国がイスラム国家に住む自国民を,領事が本国法に従って裁判したものであった。西洋列強の東洋進出にともない,自国民の生命・財産を居住国の未開な法にゆだねては危険であるとし,自国民がそれらの国の行政権や裁判権に服従しない特権として獲得した。そこで領事裁判権は国家主権を列強に侵害された半植民地の象徴となり,トルコイランエチオピア,タイ,中国,日本エジプトチュニジアアルジェリアモロッコおよびトルコ治下のブルガリアセルビアギリシアに設けられた。日本は1858年(安政5)に日米修好通商条約アメリカ合衆国に認めたのを最初に16ヵ国に許容した。1882年から廃止交渉をはじめ,苦心のすえ99年にようやく回収した。その他の国ではトルコが1923年,イランが1928年に廃止,中国では1943年にイギリス,アメリカが廃止に同意し,他の諸国もそれに従った。エジプトで1949年廃止されたのを最後に領事裁判権は地上から姿を消し全く過去のものとなった。
条約改正 →治外法権
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「領事裁判権」の解説

領事裁判権
りょうじさいばんけん

領事が在任国に在住する自国民を,在任国の法権に服させず,本国法にもとづいて裁判する権利。ヨーロッパ商人の中近東などでの領事選任による自治に起源。キリスト教国民がイスラム国家のオスマン帝国から恩恵的に得た治外法権に由来し,ペルシア・中国・タイなどが欧米諸国と結んだ不平等条約についで,日本では1854年(安政元)日米和親条約付録を萌芽とし,安政五カ国条約で民事・刑事とも片務的に規定,居留地自治が成立した。実際の裁判判決が不公正でも上告は海外のため困難であった。条約改正交渉では82年(明治15)内地開放の条件に法権服従を提示,94年イギリスなどとの新条約で領事裁判はなくなり,99年実施により法権を回復。国際社会においては1949年のエジプトを最後に消滅した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「領事裁判権」の意味・わかりやすい解説

領事裁判権
りょうじさいばんけん
consular jurisdiction

領事が、駐在国の自国民に対し、本国法に従って裁判を行う権利。中世の領事は裁判権を有したが、近代国家の成立により領域主権観念が確立し、このような裁判権は領域主権の侵害と考えられ消滅した。しかし、イスラム教国トルコはその法思想により領事裁判権を認めた。ヨーロッパ諸国は、資本主義的法制度の確立していないアジア諸国に領事裁判権を一方的に認めさせる不平等条約を締結した。日本も1855年に双務的ではあるがロシアにこの裁判権を認めたのち、ヨーロッパ諸国に一方的にこれを認め、条約改正により廃止されるまで存続した。この制度は、現在の国際社会には存在しない。

[佐分晴夫]

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旺文社世界史事典 三訂版 「領事裁判権」の解説

領事裁判権
りょうじさいばんけん

外国人が居住国の裁判権に服さず,本国派遣の領事の統制下にあるという,治外法権の中心的特権
属人法主義の法思想により,外交官・駐留軍人に認められた特権を,一般人にまで拡大した。列強がオスマン帝国やペルシアなどに通用させた内容を,1842年の南京条約締結後,イギリスとの間に結ばれた虎門寨追加条約・五港通商章程(1843)で中国に認めさせ,アメリカ・フランスも同様の特権を獲得して,東アジア進出を容易にした。

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旺文社日本史事典 三訂版 「領事裁判権」の解説

領事裁判権
りょうじさいばんけん

外国人が在住国の法による裁判に服せず,本国領事により本国の法による裁判をうける権利
治外法権の一つ。日本は1858年の安政の五カ国条約以来,アメリカなど諸外国に領事裁判権を与えたが,明治維新後,条約改正の要望を続け,'94年に結ばれた新条約の発効により,'99年に廃止を実現した。

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世界大百科事典(旧版)内の領事裁判権の言及

【カピチュレーション】より

…生命・財産の安全,治外法権(領事裁判権,免税)などの保障を在留外国人に特権的に認めることを定めた国際的条約。ヨーロッパ諸国とアジア・アフリカ諸国との間に広く成立した。…

【領事館】より

…この当時,総領事館,領事館,貿易事務館は併せて19ヵ所にすぎなかったため,定員も総領事,領事,貿易事務官を併せて19名,領事官補の定員は15名であった。
[領事館警察]
 1880年(明治13),日本は朝鮮で領事裁判権を行使することになったため,釜山領事館に外務省警察官を派遣したことが領事館警察の始まりである。84年には清国でも領事裁判権を行使するに及び,清国の領事館にも配置した。…

※「領事裁判権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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