いわゆる外交特権の一部。国際法上,国家は,原則として,その領域内にいるすべての人に対して管轄権を有する(領土主権)が,一定範囲の人に対しては管轄権を及ぼすことができない。現に滞在する国家の管轄権に服さなくてすむという,この例外的な権利が〈治外法権〉であり,最近の条約でいう〈免除〉にあたる。なお,治外法権という言葉は,不可侵権を含む広い意味にも用いられる。
外国の元首,政府高官,外交官,領事,軍艦,軍隊などは,国際慣習法により当然に治外法権を与えられるが,それぞれに認められる治外法権の範囲は同一ではない。また,国際機関の上級職員も,条約によって治外法権を与えられることが多い。なお,これらの者の家族にも,限られた範囲で治外法権が認められるのがふつうである。
外交官の治外法権は1961年の〈外交関係に関するウィーン条約〉によっていっそう明確となったが,その主たる内容は次のとおりである。(1)裁判権からの免除 外交官は,接受国(駐在国)の法令を尊重しなければならないが,犯罪を犯しても訴追・処罰されることはなく(一時的に身柄を拘束されることはありうる),原則として民事裁判にかけられることもなく,証言の義務も負わない。(2)行政権からの免除 外交官は,接受国の警察による強制処分を受けず,間接税や相続税などを除き一般に納税の義務もなく,社会保障上の義務も免除される。そのほかの有資格者は,外交官と同等またはそれ以下の治外法権を有する。
治外法権は,はじめは,国家の〈威厳〉の象徴としての意味が強かったが,しだいに,機密の保持・職務の円滑な遂行という〈機能〉の面が重視される傾向にある。
なお,かつて,日本,中国,トルコなどにおいては,欧米諸国の領事がたんに治外法権を有するだけでなく,自国民相互間の紛争はもとより自国民と接受国の国民との間の紛争も派遣国(領事の本国)の法律に基づいて裁くことがあったが,このような不平等な制度は今日ではもはや存在しない。
→領事裁判権
執筆者:波多野 里望
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国際法上、外国人は現に滞在する国家の管轄権に服するのを原則とするが、例外的に、滞在国の管轄権を免れる場合があり、その地位があたかも滞在国の外にあるかのようであるところから、これを治外法権という。治外法権が認められる場合はいくつかあるが、その内容は同一ではない。
治外法権のなかでもっとも一般的で重要なのは、外交官に認められたものである。外交特権の一部であり、古くから国際慣習法として確立しているが、1961年の「外交関係に関するウィーン条約」によってその内容がいっそう明確にされた。外交官の治外法権は、裁判権および行政権からの免除である。外交官は、接受国において、刑事裁判権から免除され、一定の場合を除いて民事および行政裁判権から免除され、また、訴訟において証人として証言する義務から免除される。外交官は接受国の警察権に服さず、各種の租税を免除され、すべての人的、物的役務や各種の年金、保険などの社会保障上の義務を免除される。なお、国家元首や外務大臣なども外国を訪れたときは、同様の治外法権が認められる。
領事が駐在国において自国の国民に対し本国法に従って裁判権を行使する、いわゆる領事裁判制度も治外法権の一種である。しかし現在では、外国の領事裁判権を認めている国はない。
このほか、領事、外国の軍艦・軍隊・軍用航空機、国際組織の職員などにも、国際慣習法および条約によって、それぞれ一定範囲の治外法権が認められる。
[広部和也]
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国際法上一定の外国人が,現にいる国の統治権,とくに裁判管轄権や行政権の行使からまぬがれうる特権。1858年(安政5)の日米修好通商条約をはじめとする安政条約において,外国側の領事裁判権,開港場・開市場での居住貿易権,居留地設定,さらに各港細則の領事・奉行間の協議決定などが規定された。関税自主権の喪失とともに不平等条約の中軸をなした。明治政府は居留地および外国人を日本の法権下におくため,近代的法典の整備を図る一方,条約改正を外交の重要課題とした。94年(明治27)イギリスをはじめとする各国と新条約を結び,99年に発効,治外法権は撤廃された。
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外国の領域内にあって,その国の法律,特に裁判権に服さない特権。外国人は,通常,現に在留する国の法秩序のもとに置かれるが,元首や外交使節(外交官)にはこの特権が認められる。かつては領事裁判制度のもとで通常の外国人にも認められた時代があったが,今日では認められない。この特権は,派遣国の公館(敷地と建物)が滞在国の領域でなくなって派遣国の領域になるわけではなく,不可侵権とともに滞在国の領域主権のもとで認められる外交特権の一つである。
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…実際には領事以外の裁判官や外交官が裁判したり,関係国が裁判官を出しあって設けた混合裁判所で裁判することもあった。この場合,居住国の法律の適用や裁判権が排除されるため治外法権とも呼ばれた。イスラム国家では法と宗教が密着し,異教徒である外国人は法の適用をうける資格がないとされたため,初めキリスト教国がイスラム国家に住む自国民を,領事が本国法に従って裁判したものであった。…
※「治外法権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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