翻訳|consul
接受国において,派遣国とその国民を保護する国家機関。原則的には,一定の管轄区域(〈領事管轄区域〉という)内で任務を遂行し,管轄区域内の権限ある地方当局と交渉を行う。任務は,具体的には,旅券・査証の発給,派遣国の国民と法人の援助,在留自国民の出生・死亡・婚姻等の届出の受理,原産地証明・遺骨証明等各種の証明書の発給,訴状等の送達または証拠調べ,船舶とその乗組員の保護監督,船舶書類の検査,航行事故の調査,乗組員間の紛争の調停,派遣国と接受国の間の通商上,文化上,科学上の関係を発展させること,接受国の通商上,経済上の諸事情を確認し派遣国の政府に報告しかつ利害関係を有する者に情報を提供すること等である。また,本務領事と名誉領事があり,前者がもっぱら領事任務を遂行するために本国から派遣されたものであるのに対し,後者は多くの場合他の利得的職業にも従事し,また,接受国の国民が任命されることが多い。日本も,北米・中南米諸国,ヨーロッパ諸国,オーストラリア等に数多くの名誉領事を任命している。
このような領事制度は,中世の十字軍時代にイタリアの商業都市が東方地方の居留地に任命した行政長官vicomteに由来する。このvicomteがのちにコンスルconsulと呼ばれるようになり,他の西欧諸都市によっても採用されていったが,この時代の領事(コンスル)は,居留地の行政長官であると同時に,その居留地内の本国都市の商人たちの争いを裁く裁判官であり,また,駐在国政府と直接に交渉を行う権限も認められていた。しかし,近代国家が成立し,直接に国家により任命されるようになると,領事は,もっぱら相手国の一定の管轄区域内における本国および在留自国民の一定の利益の保護,ことに経済的利益の保護をつかさどる機関となった。これは,一方で領土主権の観念の確立にともない領事裁判権が認められなくなり,他方で常駐外交使節団の制度が一般化したことによる。こうして,17,18世紀にはほとんど注目をひかなくなった領事制度は,19世紀に入り国際貿易が盛んになるにつれその重要性が再認識され,関係国間の条約(通商航海条約や領事条約)により詳細に規定されるようになった。なお,トルコや中国等若干の非キリスト教国では,国家の法制度が十分に整っていなかったこと,欧米諸国と著しく文化を異にしていたこと等の事情により,領事裁判権がかなり最近まで認められていた。
領事制度については,今日,一般的な条約として〈領事関係に関するウィーン条約〉(1963年採択,1967年発効,1996年2月現在の当事国数は153,日本は1983年になって加入した)があり,この条約が領事関係の一般国際法として確立しつつある。この条約は,領事の種類,階級,任免,任務等について定めるとともに,領事の特権について外交特権に準じて詳細に規定している。すなわち,同条約によれば,本務領事を長とする領事機関は,公館の不可侵,公館に対する課税の免除,公文書および書類の不可侵等を享受し,また,本務領事官は,裁判権の免除,身体の不可侵,課税および関税の免除,社会保障規定の免除等を享受する。ただし,例えば,裁判権の免除は公務遂行中の行為についてのみ認められ,また,身体の不可侵は重大な犯罪を犯した場合等は認められない等,領事特権は,多くの場合に外交特権より制限されたものとなっている。また,名誉領事については,さらに著しく制限された特権のみが認められているにすぎない。
→外交官
執筆者:野村 一成
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外国において自国や自国民の利益保護、通商友好の促進、旅券・査証visaの発給、公証・司法補助などの業務を行うため、本国の法令と任地国の認可により行動する国家の在外機関をいう。本国が俸給を与え、専任として派遣する専任(派遣)領事と、接受国に居住している自国民・接受国民に委嘱して、定給を支払わず手数料・手当だけで職務を行わせる名誉領事とがある。
領事は、歴史的には海外において商人間の紛争を仲裁した商事仲裁人に由来するといわれ、派遣国と任地国の通常の外交ルートとなるものではないという点で、外交使節と異なる。領事と広くよばれるもののなかには、総領事、領事、副領事、領事代理の階級がある。1963年の「領事関係に関するウィーン条約」では、これを領事機関の長の階級としているが、63年の日米、64年の日英領事条約などでは、領事を個人的資格として取り扱っている。領事は、派遣国政府(元首、国によっては外相)から委任状が付与され、大・公使を通じて任地国政府に提出し、任地国政府から認可状exequaturが与えられ、それによって職務の開始を認められるのが通例である。
領事には、領事条約や通商航海条約によって、その職務の能率的な遂行を確保するため一定の特権免除が認められる。なお、かつて領事に任地国在住の派遣国民に対する「領事裁判権」が認められていたことがあるが、現在では認められない。
[宮崎繁樹]
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…外国にあって自国の通商促進と国民保護にあたる官署。日本に置かれた最初は下田にアメリカ領事ハリスが開いたものであるが,日本が外国に領事館を設置したのは,幕府が1867年(慶応3)9月サンフランシスコにおいてアメリカ人チャールズ・ウォルコット・ブルークスを雇い入れて領事事務を委任したのと,それと前後してパリでフランス人フルーリー・エラールに総領事の事務を委任したのがはじめであるという。69年(明治2)に政府はエラールに代わりフランス人モンブランを雇い入れ総領事とし,70年10月には清国の上海に仮領事館を置き品川忠道を勤務させた。…
※「領事」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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