日本大百科全書(ニッポニカ) 「風俗営業等取締法」の意味・わかりやすい解説
風俗営業等取締法
ふうぞくえいぎょうとうとりしまりほう
風俗に関する営業、とくに売春などの性的非行や賭博(とばく)などの射幸心をあおる営業を規制対象とする法律。正式名称は「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」。昭和23年法律第122号。「風営法」「風俗営業法」などとも略される。第1条で「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため、風俗営業及び性風俗関連特殊営業等について、営業時間、営業区域等を制限し、及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに、風俗営業の健全化に資するため、その業務の適正化を促進する等の措置を講ずること」と、その目的を規定している。この種の営業は時代とともに変化するため、繰り返し法改正がなされてきた。また、本法が規制対象とする営業には多種多様なものがあるため、これを「風俗営業」(待合、料理店、キャバレー、ダンスホール、喫茶店、バー、麻雀(マージャン)屋、パチンコ屋、ゲームセンターなど)と「性風俗関連特殊営業」(個室付浴場、ストリップ劇場などの興行場、ラブホテルなど)とに区分している。風俗営業については公安委員会の営業許可を必要とし、細かい遵守事項が定められており、性風俗関連特殊営業についても公安委員会への届出を要し、さまざまな規制が加えられ、取締りの実効性を確保するために数多くの罰則規定がある。
第二次世界大戦前は、庁府県令(「待合、芸妓屋(げいぎや)営業取締規則」など)で広く風俗営業の取締りが行われていたが、戦後の1947年(昭和22)にこの庁府県令が失効し、食品衛生法、旅館業法、公衆浴場法などとともに、風俗営業取締法が制定された。1959年の改正で風俗営業等取締法と名称が変更され、その後数回の改正を経て、セックス産業と称される営業形態の出現や少年非行の激増を背景に、1984年に大改正が加えられ、現在の正式名称に改められた。
1998年(平成10)には、社会の国際化、情報化に対応するための改正が行われた。おもな改正点は、外国人に不法就労活動をさせたことにより刑に処せられた場合を風俗営業の許可の欠格事由としたこと、従来の風俗関連営業の名称を店舗型性風俗特殊営業に改め、新たに設定した無店舗型性風俗特殊営業、映像送信型性風俗特殊営業とあわせ「性風俗特殊営業」として規制の対象としたことなどである。とくに映像送信型性風俗特殊営業はインターネットによるポルノ映像の有料提供を対象とし、事業者に公安委員会への届出を義務づけ、18歳未満の者を客とすることを禁じた。
[名和鐵郎]
2001年(平成13)改正では「性風俗特殊営業」は「性風俗関連特殊営業」と改称された。また、テレホンクラブ、ツーショットダイヤル等の店舗型電話異性紹介営業、無店舗型電話異性紹介営業が規制の対象となった。
第二次世界大戦後、ダンスホールが売春の温床であった名残(なごり)から、ダンスを踊るクラブやダンス教室は風俗営業等取締法で「風俗営業」と規定され、営業時間や区域が制限されてきた。しかし1990年代以降、曲にあわせて踊りを楽しむクラブは全国に広がり、若者の流行発信拠点の一つとなった。ダンスそのものには風俗や環境を乱す性質はなく、2012年には中学校の必修科目にもなった。このため超党派国会議員連盟や政府の規制改革会議は成長戦略の一環としてダンス営業の規制緩和を要求。2015年に、深夜のダンス営業を条件つきで認める改正風俗営業等取締法が成立し、2016年6月に施行した。改正法では、店内の明るさが10ルクス(上映前の映画館に相当)を超えているクラブなどを「特定遊興飲食店営業」に分類し、公安委員会の許可を得れば24時間営業ができるようになった。具体的な営業区域や時間は都道府県条例で定め、住宅街や病院、児童福祉施設の周辺などでの営業を禁じた。近隣の住環境を守るため、公安委員会にクラブ、住民、警察の協議の場の設置を努力義務として課したほか、クラブに対しては泥酔客に酒類を提供せず、店内外を見回ることなどを努力義務とした。なお、ダンス教室とダンスホールは風俗営業等取締法の規制対象から外した。
[矢野 武 2016年12月12日]