警察法に基づいて、警察の管理と運営を行う独立の合議制行政機関。内閣府の外局として置かれている中央機関としての国家公安委員会と、都道府県知事の所轄の下に置かれている都道府県公安委員会がある。公安委員会制度は、日本国憲法下において、警察運営の民主化を促進し、警察行政の政治的中立性を確保するため、1947年(昭和22)旧警察法によって設置された。当初は、国家地方警察を管理するための国家公安委員会と都道府県公安委員会、自治体警察を管理するための市町村(特別区)公安委員会が置かれたが、1954年の警察法の全面改正(現行法)によって、市町村自治体警察と国家地方警察が都道府県警察として一本化され、警察制度の地方分権化が廃止されたことに伴い、現行の制度となった。
公安委員会の委員は、いずれの場合も、任命前5年間に警察または検察の職務を行う職業的公務員の前歴のない者から任命され、一定数以上の委員が同一の政党に所属してはならないことになっている(国家公安委員会では3人以上、都・道・府および政令指定都市を包括する指定県では3人以上、その他の県では2人以上)。委員は、所定の任期の下でその身分が保障され、法定の事由に該当する場合を除き、その意に反して罷免されることがない。
[福家俊朗]
委員長と5人の委員で組織され、委員長には国務大臣があてられる。委員は、内閣総理大臣によって両議院の同意を得て任命される。国家公安委員会は、国の公安にかかわる警察運営をつかさどり、警察教養、警察通信、犯罪鑑識、犯罪統計および警察装備に関する事項を統轄し、ならびに警察行政に関する調整を行うことを任務とし、これを遂行するために所定の重要な事務について警察庁を管理する。なお、その権限に属する事務に関し、法令の特別の委任に基づいて、国家公安委員会規則を制定できるとともに、警察庁長官、警視総監、道府県警察本部長ならびに都道府県警察の職員のうち、警視正以上の階級にある上級警察官(地方警務官)の任免権を有する。また、内閣総理大臣の緊急事態の布告には、国家公安委員会の勧告が必要である。たとえば、大規模な震災や外国の侵攻などの緊急事態が発生し、治安が混乱する状態が生じた場合、治安の維持のためにとくに必要と認めたときは、総理大臣は緊急事態の布告を発することができるが、この布告は国家公安委員会の勧告に基づいて行わなくてはならない。緊急事態の布告は、これまで発せられたことはない。
ところで、1999年(平成11)から2000年にかけて集中的に起こった警察の不祥事に対して、国家公安委員会が迅速、的確な対応ができなかったことで、問題になった。これを受けて、同委員会は民間有識者で構成される諮問会議「警察刷新会議」を設置、同会議は「警察刷新に関する緊急提言」を出した。9章からなり、国家公安委員会の活性化(管理能力の強化、監察点検能力の強化など)、警察庁の人事・教育制度の改革などを提言した。
[福家俊朗]
都・道・府および指定県においては5人の委員、指定県以外の県では3人の委員で組織される。委員は、都道府県議会の同意を得て、知事によって任命され、当該議会の議員の被選挙権を有する者でなければならない。ただし、道・府および指定県の場合、委員のうち2人は、当該指定市の市長がその市の議会の同意を得て推薦した者を知事が任命する。なお、住民は、委員の解職を要求できる(地方自治法86条)。
[福家俊朗]
フランス革命中、1793年4月、国民公会によって設置された委員会。委員はまず9人、やがて12人、原則的に1か月ごとに議会によって選ばれるが、再選を認め、もっとも活動した時期はほとんど同一の委員で構成された。委員長は置かれず共同責任で、担当は一般政務がロベスピエール、サン・ジュスト、クートンたち、軍需生産と陸軍に関してはカルノーら、海軍はサン・タンドレ、外交はバレール、食糧補給はランデなどが担当。とくにロベスピエールを中心として権力を握り、「大委員会」とよばれた。委員会は国民公会に報告する義務があるが、その信任を得、行政府をしのぐ権限をもって財政を除く重要政策に介入、93~94年、内外反革命に対応する非常事態、いわゆる恐怖政治の中心的存在として、独裁的に機能した。しかし委員会内部に、ロベスピエール派とその他のグループとの分裂が生じ、また警察権をめぐって保安委員会と対立し、さらに国民公会の勢力も介入したため、94年7月、ロベスピエール、サン・ジュスト、クートンの没落をみることとなった。その後、恐怖政治が常態に復するにつれて、公安委員会の権限は軍事と外交に縮小され、95年10月、国民公会の解散とともに委員会は廃止された。
[山上正太郎]
1793年4月のフランスで,まだジロンド派国民公会の時期に,総防衛委員会Comité de défense généraleの後をうけて,行政の監視と促進のために設立された機関。国民公会から選出される9名の委員(任期1ヵ月で,連続再任可能)には最初ダントンなどの山岳派右派が指名されたが,この委員会は十分な機能をしなかったために,93年6月のジロンド派追放後に大幅な改造がおこなわれた。12名に増員された委員には,今度は山岳派の左派が選出され,委員会の権限も強化された。とくに93年9月から94年7月までの〈大公安委員会〉の時期には,保安委員会Comité de sûreté généraleに治安警察権をゆだねるほかは,行政のいっさいを掌握し,事実上の革命政府としてジャコバン独裁・恐怖政治を遂行していった。この委員会の執務室はチュイルリ宮の一室にあり,荒れ果てていたが,かつては王妃マリー・アントアネットが使用した部屋であった。会議は毎日午後から開始され,時には深夜まで続けられた。委員のうちバレールBertrand Barèreは国民公会や諸官庁との連絡調整を,ランデJean-Baptiste-Robert Lindetは食料補給を,カルノーは軍事問題,プリュール・ド・ラ・コート・ドールClaude-Antoine Prieur de la Côte-d'Orは武器・弾薬の調達,ビヨ・バレンヌJacques-Nicolas Billaud-Varenneとコロ・デルボアJean-Marie Collot d'Herboisは地方行政を主として担当したが,委員会の政策の全体的方向を決定づけたのは,事実上ロベスピエールと,彼を補佐したサン・ジュストおよびクートンGeorges-Auguste Couthonであった。しかしジャコバン独裁の末期になると,保安委員会との対立や,ロベスピエールの個人独裁を危惧する他の委員と,ロベスピエール派との対立が表面化し,テルミドールの反動を招いた。ロベスピエール派の処刑後は,この委員会は権限を縮小され,95年10月,国民公会の解散とともに廃止された。なお1871年のパリ・コミューンでも公安委員会が組織された。しかしこれに賛成の多数派(ブランキ派,ジャコバン派)と,反対の少数派(インター派)との間で対立が生じ,今度はほとんど実績をあげることができなかった。
→恐怖政治
執筆者:小井 高志
警察を管理する合議制の機関。公安委員会制度は,第2次大戦後,警察制度の根本的変革を目ざし,警察の地方分権化,警察責務の限定化とならんで,導入された。その設置目的は,警察運営の民主化と政治的中立化の実現にある。旧警察法(1947公布)の下では,国家地方警察の管理機関として国家公安委員会および都道府県公安委員会が,自治体警察の管理機関として市町村(特別区)公安委員会が設置されていたが,現行警察法(1954公布)は国家公安委員会,都道府県公安委員会,方面公安委員会を設けるとしている。委員は,いずれも,任命前5年間に警察または検察の職務を行う職業的公務員の前歴のない者のうちから任命される。委員の一定数以上が同一の政党に所属することは認められない。委員の任期は,国家公安委員会が5年,都道府県・方面公安委員会が3年。いずれも再任可能であり,委員は,法定の事由以外に,失職しあるいはその意に反して罷免されることはない。各公安委員会は,上下関係にはないが,つねに相互に緊密な連絡をとりあわなければならない。公安委員会については,制度的にも実質的にも,その独立性・民主性に問題があるとする指摘もある。(1)国家公安委員会 内閣総理大臣の所轄の下におかれ,委員長および委員5人で組織される。委員長には国務大臣があてられ,委員は内閣総理大臣が両議院の同意をえて任命する。その任務は,国の公安にかかわる警察運営をつかさどり,警察教養,警察通信,犯罪鑑識,犯罪統計および警察装備に関する事項を統轄し,ならびに警察行政に関する調整を行うことである。その任務を果たすため,警察法5条2項が規定する事務につき警察庁を管理し,そのほか,個別の法律がその権限に属するとした事務をつかさどる権限をもち,それらの事務に関し,法令の特別の委任に基づき,規則を制定する権限をもつ。ほかに,警察庁長官,地方警務官の任免権などがある。国家公安委員会の庶務の処理は警察庁が行う。(2)都道府県公安委員会 都道府県知事の所轄の下におかれ,都道府県警察を管理する。委員は,都,道,府,指定県(政令指定都市を包括する県)においては5人,指定県以外の県は3人。任命権者は知事。規則制定権限をもつ。(3)方面公安委員会 北海道の5方面ごとにおかれ,委員は3人。任命権者は道知事。規則制定権限はもたない。
執筆者:神長 勲
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… まず山岳派は,〈社会の目的は公共の福祉にあり〉という原則を掲げた新憲法(普通選挙を含む)を制定したが,内外の非常事態を前にしてこの憲法の実施を延期し,憲法によらない非常政治体制としての〈革命政府〉を樹立した。この体制は立法権と行政権とを分立させず,立法府たる国民公会のなかのいくつかの委員会,とくに公安委員会に強力な行政的な権限をも集中して敏速な政治指導を行おうとする一種の独裁体制であって,公安委員会において最も指導的な役割を果たしたのが,パリのジャコバン・クラブを背景とするロベスピエールであった。この独裁体制は,旧体制を徹底的に一掃するとともに内外の反革命勢力の攻撃から革命を擁護するための非常手段であるという意味で,革命的独裁と呼ばれうる。…
※「公安委員会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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