露地における施設の一。腰掛,袴付(着)(はかまつき),寄付(よりつき)ともいう。《茶湯秘抄》によると〈路地に五畳敷のキヌヌキ有之ナリ〉とみえ,奈良の茶匠,松屋久行は待合のような部屋を設けていた。この衣脱(きぬぬき)は〈今更之様ニ申セ共,昔よりもありたるぞ〉とも誌(しる)されているところから,遅くとも村田宗珠,武野紹鷗(しようおう)の時代より以前からあった施設であることが知られる。茶室に縁が付いていたころには,縁が腰掛の役割をしていたが,松屋久栄の露地では,縁側の前の庇(ひさし)の下に〈長五尺六寸,足フトサ一寸二分〉の床几を置いて腰掛待合に使われていた。このような床几がやがて造付けとなり,後の待合になったのであろう。そのころは二重露地,三重露地は形成されていなかったので,座敷の一室が待合にあてられたこともあったであろう。1587年(天正15)の利休伝書に〈路地に水打ちしまひたる時,中立する也。先へ出でたる人,腰掛の円座を配るべし〉とみえるので,腰掛は板張りであったことがわかる。中門を境に外露地と内露地とに分かれる二重露地が整うのは千利休からとも古田織部からともいわれるが,利休時代にはほぼ整っていたとみられる。露地の発展に伴い,外露地には外腰掛,下腹雪隠(したばらせつちん)が,内露地には内腰掛が設けられるようになった。客は外腰掛で連客を待ち合わせて亭主の迎付(むかえつけ)を待ち,内腰掛では中立ちをして再び席入りの合図を待つ。利休時代における待合の一例として,〈外腰掛ニ堂葺ト云テ四方棟ノ瓦葺有。六畳敷也。此所ハ相客来テ待合。又ハ装束改所也〉(《茶譜》)と誌されているが,形式や位置に特に定めはない。住居の一部が待合にあてられることもあり,炉や床の間を備えているものもある。
→茶室
執筆者:日向 進
貸席業としての待合は,江戸時代の待合茶屋を起源とする。待合茶屋は,商人の寄合いや旅人の送迎など,本来の待合せに利用する茶屋であったが,明治初年以後は花柳街における芸者との遊興場所として急成長した。これには,政治家や政商などが〈待合政治〉という熟語を生むほどに盛んに利用したことも見のがせず,待合における芸者の売春が公然の秘密であったのも,政治的圧力が介在したといわれる。現在は風俗営業の対象であるが,名称を料亭と変えている地方(東京都など)や,貸席,料理店に含めている地方もあって,概念は統一されていない。原則として待合は,芸者などの芸人を招いて客に遊興させる店で,調理設備をもたず飲食物は他から取り寄せることとし,貸席料のほかに飲食代や芸者の玉代(ぎよくだい)および売春料の一部をはねて収入とする。なお,江戸時代の売春仲介貸席業としては,中宿(なかやど),盆屋(ぼんや),船宿などがあった。
執筆者:原島 陽一
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主として茶会(茶事(ちゃじ))において客が待ち合わせ、身支度を整えるための施設で、寄付(よりつき)、袴付(はかまつけ)、また昔は「一宿(ひとやどり)」とも称された。その配置や形式は一定しないが、通常外露地(そとろじ)の一角に、2~3畳の小室と土間に腰掛をつくり、雪隠(せっちん)を付した小亭を設ける。小室では簡略な床、丸炉(がんろ)とか瓶掛火鉢(びんかけひばち)を備え、湯や香煎(こうせん)を供しうる用意がなされ、持ち物を置く棚がしつらえられることもある。案内があると、客は順次露地に出て腰掛に至り亭主の迎付(むかえつけ)を待つのである。待合を露地に特設しないで、主屋の一室が利用される場合もある。表千家では本玄関のわきの部屋が寄付に使用されている。また裏千家では無色軒(むしきけん)が使われる。仙叟(せんそう)好みと伝えられ、六畳の広さの一畳は板張り、そのわきの一畳に炉を向切(むこうぎり)とし釘箱(くぎばこ)棚を設け、客座側の一間を張付(はりつけ)の壁床としている。
また茶会とは別に、江戸時代から遊興のために客が待ち合わせる待合茶屋の略称としても使われてきた。
[中村昌生]
待合茶屋の略。江戸時代に待ち合わせや会合に利用する貸席として出現した待合は、明治以後芸者の主要な出稼ぎ場に変質して急増した。その多くは、主業態であるべき貸席よりは、芸者らの売春に場所を提供することを主とした。待合は、関西などの「席貸し」を除いて、調理施設をもたないことが原則であり、席料のほか酒食提供料や芸者の玉代(ぎょくだい)の一部を手数料として徴収する。現在は風俗営業等取締法に基づく各都道府県の施行条例によって、待合または料亭・貸席などの名称で取締りの対象とされ、主として和風の接待をする場所として営業場所、客室の構造設備などに指定基準が設けられている。
[原島陽一]
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