風流能(読み)ふりゅうのう

改訂新版 世界大百科事典 「風流能」の意味・わかりやすい解説

風流能 (ふりゅうのう)

能の分類名。〈劇能〉と対する。美少年が小歌,曲舞(くせまい),羯鼓(かつこ)などの芸能を尽くす《花月》,武士の鬼退治をみせる《土蜘蛛》,天人の舞が中心の《羽衣》など,人間の心理や葛藤を描くよりも見た目のおもしろさや舞台上のはなやかな動きを中心とした能を指し,広い意味では脇能(神霊が祝福を与える内容)も含まれる。なかでも観世信光作《玉井(たまのい)》《竜虎(りようこ)》《愛宕空也(あたごくうや)》,金春禅鳳(こんぱるぜんぽう)作《嵐山》《一角仙人》,観世長俊作《江野島(えのしま)》《輪蔵(りんぞう)》などは,華麗な扮装神仏,天仙,竜神などが次々と登場して舞台を動き回り,大がかりな仕掛けの作り物を活用し,アイ(間)も《玉井》の〈貝尽し〉,《嵐山》の〈猿聟〉,《江野島》の〈道者〉のように,にぎやかにくふうを凝らす(ただし,今日これらのアイは特別な場合しか上演しない)など,全体がスペクタクル・ページェント・ショーとして統一されている。日本では,スペクタクルやショーに類するものを古来〈風流〉と称したので,この種の能を風流能と名づけた。風流性は能が原初からもっていた性格と推定されるが,世阿弥は風流能制作にさほど関心を示さず,応仁の乱(1467-77)前後に活躍した前記の能作者によって著しい発達を遂げた。彼らが風流能に力を入れた要因として,一般民衆を中心とした新たな観客層開拓の必要性,世阿弥風の歌舞能の行詰り,若年の大夫を補佐すべき環境などが指摘されている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の風流能の言及

【風流】より

延年
[能・狂言の風流]
 風流の作り物で文学や和歌などの故事を好んで立体化する精神は,能にも共通するもので,同時代の芸能である能は,風流の精神を基盤として飛躍したともいえる。とくに応仁の乱以後には《羽衣》《船弁慶》《紅葉狩》など,見た目の華やかさを主眼とした能が作られており,現在ではこれを〈風流能〉の名で呼びならわしている。また能の《式三番》(《翁》)に介入する形で演じられる〈狂言風流〉も,その名称からして当時の囃子物の仮装風流や,延年の風流の〈走物〉の影響を受けていることは明らかである。…

※「風流能」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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