一角仙人(読み)イッカクセンニン

デジタル大辞泉 「一角仙人」の意味・読み・例文・類語

いっかくせんにん【一角仙人】

インド波羅奈はらなで鹿から生まれ、頭に角が一つあったという仙人
謡曲四番目物五番目物宝生以外の各流。金春禅鳳作。竜神を封じ込めて雨を止めた一角仙人が、旋陀夫人せんだぶにんという美女容色に迷って自滅し、竜神は逃げ去る。

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精選版 日本国語大辞典 「一角仙人」の意味・読み・例文・類語

いっかくせんにん【一角仙人】

  1. 謡曲。四番目。遊楽物観世・金春・金剛喜多流。金春禅鳳(こんぱるぜんぽう)作。天竺(てんじく)(=インド)波羅奈(はらな)国の一角仙人は、龍神と争いこれを岩屋に閉じ込めて、国中を干ばつにしてしまう。国王は計略で旋陀夫人(せんだぶにん)を送り、その容色に迷わせて、仙人の神通力をなくしてしまう。歌舞伎十八番「鳴神(なるかみ)」の典拠

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改訂新版 世界大百科事典 「一角仙人」の意味・わかりやすい解説

一角仙人 (いっかくせんにん)

女色により通力を失った仙人譚の主人公。《今昔物語集》巻五によれば,昔天竺に額に角一つ生えた仙人がおり,一角仙人とよばれた。彼は多年深山に修行し通力あらたかであったが,あるとき雨の山道ですべり倒れたことを立腹し,雨を降らす竜王を憎んで,多くの竜王を水瓶にとりこめてしまった。ために天下は干ばつがつづき万民の嘆きとなる。国王が仙人の通力を失わせる方途を問うたところ,ある人女色をもってすることを案じ,美女500人をよりすぐり,仙人の山中で妙なる歌をうたわせた。仙人これに心魂を迷わせ美女に接するや否や,通力解けて諸竜王は水瓶から空に昇り,雷鳴とともに大雨が到ったという。この原話は《大智度論(だいちどろん)》《法苑珠林(ほうおんじゆりん)》等の仏典に見えるもので,日本では《宝物集(ほうぶつしゆう)》《太平記》に類話があり,謡曲《一角仙人》,歌舞伎《鳴神(なるかみ)》はこれらの劇化・翻案である。
久米の仙人
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一角仙人 (いっかくせんにん)

能の曲名四番目物五番目物金春禅鳳作。シテは一角仙人。天竺(てんじく)波羅那国(はらなこく)の辺境の山中に住む一角仙人が,神通力で竜神を岩屋に封じ込めたために,国中に雨が降らなくなった。帝王は一策を案じ,美妃(ツレ)を道に迷ったていにして山中に分け入らせる。仙人はその容色に引かれ,杯を受けて妃の舞を見るうちに,自分も立ってまねを始める(〈楽(がく)〉)。酔い伏した仙人のていを見て妃が都へ帰ったあと,岩屋が裂けて竜神が飛び出すので,目覚めた仙人は剣を抜いて立ち向かうが,すでにその神通力は失せ,大雨の中を竜神は立ち去る(〈舞働(まいばたらき)・ノリ地〉)。楽が中心で,仙人が女色に迷うていが描かれる。竜神の役は2人の子方(こかた)が演ずる。歌舞伎の《鳴神(なるかみ)》の原拠。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「一角仙人」の意味・わかりやすい解説

一角仙人
いっかくせんにん

能の曲目。四、五番目物。観世、金春(こんぱる)、金剛、喜多四流現行曲。『太平記』に材をとる金春禅鳳(こんぱるぜんぽう)の作。能の曲目中、もっとも遠隔の地、天竺(てんじく)(インド)を舞台としている。シカの胎内から生まれたため額に角(つの)の生えている一角仙人(シテ)は、竜神と力を争い、これを岩屋に封じ込めたので、数か月も雨が降らない。帝(みかど)によって旋陀夫人(せんだぶにん)という美女(ツレ)が誘惑者として山奥へ派遣される。仙人は美女の舞に見とれ、やがてまねして舞い出す。美女と野獣の対比をみせる特色ある相舞(あいまい)のくふうである。酔い伏して神通力を失った仙人。竜神2人(ツレ)が岩屋を破って現れ、仙人は剣を手に戦うが敗れ、竜神は大雨を降らしつつ竜宮へ帰る。竜神は子方でも演ずる。歌舞伎(かぶき)の『鳴神(なるかみ)』の原典である。

[増田正造]

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「一角仙人」の解説

一角仙人 いっかくせんにん

古代インドの説話上の仙人。
天竺(てんじく)にすみ,角をはやす。大雨をうらみ旱魃(かんばつ)をおこすが,女色にまよい神通力をうしなう。インドの仏典「大智度論」などを介して日本の「今昔物語集」などに登場,謡曲「一角仙人」や歌舞伎「鳴神(なるかみ)」のモデルとなる。

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世界大百科事典(旧版)内の一角仙人の言及

【ジャータカ】より

…また,日本へも前述の漢訳文献を通じて《今昔物語集》などに入っている。たとえば,〈二羽の紅鶴と亀〉の話は,〈亀と鷲〉(イソップ),〈二羽の家鴨と亀〉(ラ・フォンテーヌ),〈雁と亀〉(《今昔物語集》)となり,一角仙人の話は《今昔物語集》を通じて謡曲《一角仙人》や歌舞伎《鳴神》となっている。 ジャータカはまた,彫刻や絵画等としても表現されている。…

※「一角仙人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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