玉井(読み)タマノイ

デジタル大辞泉 「玉井」の意味・読み・例文・類語

たまのい【玉井】[謡曲]

謡曲脇能物観世金剛喜多流。観世小次郎信光作。記紀取材彦火火出見尊ひこほほでみのみこと釣り針を探しに竜宮へ行き、玉の井戸のほとりで豊玉姫と契りを結ぶ。

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精選版 日本国語大辞典 「玉井」の意味・読み・例文・類語

たま‐の‐い‥ゐ【玉井】

  1. [ 一 ] 京都府綴喜郡井手町にあった井戸玉水。井手の玉水。
  2. [ 二 ] 東京都墨田区東向島にあった私娼街。大正七年(一九一八)頃浅草観音堂裏の銘酒屋が移転して発展。永井荷風の「濹東綺譚」の舞台。
  3. [ 三 ] 謡曲。脇能物。観世・金剛・喜多流。観世信光作。彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)は兄に借りた釣針を魚にとられてしまったので海中に尋ねて行き、龍宮の門前にある玉の井戸のそばで、豊玉姫と玉依(たまより)姫に会って龍宮に案内される。尊は歓待されて三年過ごし、姫たちから贈り物を受け、父の海神に釣針を捜してもらって帰る。「古事記」「日本書紀」による。

たま‐い‥ゐ【玉井】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「たま」は美称 ) 清らかな清水のわく井。玉の井。
    1. [初出の実例]「涼しさに千とせをかねてむすぶかな玉井の水の松の下かげ〈藤原経光〉」(出典:続拾遺和歌集(1278)賀・七六二)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「玉井」の意味・わかりやすい解説

玉井
たまのい

能の曲目。初番目物。観世(かんぜ)・金剛(こんごう)・喜多(きた)流現行曲。観世小次郎信光(のぶみつ)作。『日本書紀』を典拠とする。魚にとられた兄の釣り針を取り戻すべく、彦火々出見尊(ひこほほでみのみこと)(ワキ)は海の都に至り、豊玉(とよたま)姫(前シテ)・玉依(たまより)姫(ツレ)姉妹と会い、豊玉姫と結婚して月日が流れる。貝たち(間(あい)狂言)の祝宴の場面ののち、2人の姫(後ツレ)は潮満玉(しおみつたま)・潮干玉(しおひるたま)を贈り、父親の老竜王(後シテ)は釣り針を捜し出して捧(ささ)げ、尊を陸地に送る。古代の異民族交婚説話を描く、雄大で舞台面のにぎやかな作品。前段のシテとツレが後段では子方として登場する演出もあるのは、竜王を強調する能の遠近法である。

[増田正造]

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世界大百科事典(旧版)内の玉井の言及

【風流能】より

…美少年が小歌,曲舞(くせまい),羯鼓(かつこ)などの芸能を尽くす《花月》,武士の鬼退治をみせる《土蜘蛛》,天人の舞が中心の《羽衣》など,人間の心理や葛藤を描くよりも見た目のおもしろさや舞台上のはなやかな動きを中心とした能を指し,広い意味では脇能(神霊が祝福を与える内容)も含まれる。なかでも観世信光作《玉井(たまのい)》《竜虎(りようこ)》《愛宕空也(あたごくうや)》,金春禅鳳(こんぱるぜんぽう)作《嵐山》《一角仙人》,観世長俊作《江野島(えのしま)》《輪蔵(りんぞう)》などは,華麗な扮装の神仏,天仙,竜神などが次々と登場して舞台を動き回り,大がかりな仕掛けの作り物を活用し,アイ(間)も《玉井》の〈貝尽し〉,《嵐山》の〈猿聟〉,《江野島》の〈道者〉のように,にぎやかにくふうを凝らす(ただし,今日これらのアイは特別な場合しか上演しない)など,全体がスペクタクル・ページェント・ショーとして統一されている。日本では,スペクタクルやショーに類するものを古来〈風流〉と称したので,この種の能を風流能と名づけた。…

※「玉井」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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