作り物(読み)ツクリモノ

デジタル大辞泉 「作り物」の意味・読み・例文・類語

つくり‐もの【作り物】

人の手で実物そっくりに作ったもの。まがいもの。人造物。模造品。「作り物ダイヤの指輪」
事実に基づかず、虚構によって作り出した事柄、または文学作品。
「何だか小説か―のようで」〈逍遥当世書生気質
狂言で、舞台に据える簡単な装置。山・舟・宮殿・釣鐘など。小道具にもいう。
歌舞伎などの芝居で、舞台装置のこと。大道具
祭礼などで、趣向をこらした人形などの飾りもの。
田畑で作るもの。農作物
「あの者が―少しも損ねざるやうに」〈浮・桜陰比事・二〉
[類語]模造偽造偽作贋作贋造代作変造複製偽物紛い物食わせ物如何様いかさま擬古コピーイミテーションレプリカフェイク

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精選版 日本国語大辞典 「作り物」の意味・読み・例文・類語

つくり‐もの【作物・造物】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 人間が、材料から道具などを使って作り出したもの。
      1. (イ) 手作りの産物。
        1. [初出の実例]「秦の民を散(あか)ち遷(うつ)して庸(ツクリモノ)調(みつき)を献ら使む」(出典:日本書紀(720)雄略一六年七月(前田本訓))
      2. (ロ) 人工の物。
        1. [初出の実例]「棚の上の作り物のあやつり、色々に見ゆれ共、まことには動く物にあらず」(出典:花鏡(1424)万能綰一心事)
    2. 田畑の作物(さくもつ)。耕作物。農作物。
      1. [初出の実例]「なげきと申は、つくり物などをすこしもそんさし給ふべからつ」(出典:極楽寺殿御消息(13C中)第四五条)
    3. 物の形を模してつくった、飾り物。賞翫用に種々の物の形につくったもの。
      1. [初出の実例]「草花難得之間、異形之物等立、梵祐種々造物廿二瓶進」(出典:看聞御記‐永享五年(1433)七月五日)
      2. 「碁盤のうへにはるは来にけり うくひすのすこもりといふつくり物」(出典:宗長手記(1522‐27)上)
    4. 種々の人や物などの形をつくって飾った、祭礼などの時の出しもの。趣向をこらして、人形や物を配置した見せもの。
      1. [初出の実例]「廿二日の朝、六波羅の門の前に、をかしき事を造物にして置けり。土器(かわらけ)に蔓菜を高坏にもりて、折敷にすゑ、五尺計なる法師の〈略〉かはらけの汁をにらまへて立ちたるを造りて置けり」(出典:源平盛衰記(14C前)三)
    5. ( から転じて ) 似せて作ったもの。まがいもの。偽造物。にせもの。
      1. [初出の実例]「是は名を書て判をせられたほどに、つくりものぢゃと云たぞ」(出典:百丈清規抄(1462)四)
    6. 事実を記したものでなく、虚構によってつくり出した事柄または作品。
      1. [初出の実例]「光曜と名に付は、知恵をかかやかすと云心也。無有と云名は空寂なりと云方也、皆作りもの也」(出典:清原国賢書写本荘子抄(1530)七)
      2. 「何だか小説か仮作(ツクリモノ)のやうで」(出典:当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉二〇)
    7. 弓術で、弓の稽古に使用する標的としてつくられた物。すなわち、草鹿(くさじし)・円物・大的・小的の類。流鏑馬(やぶさめ)・笠懸・犬追物の類を馬上の作り物という。
      1. [初出の実例]「然者猶可三流作物、於失礼者、忽可其咎者」(出典:吾妻鏡‐建久元年(1190)八月一六日)
    8. 能楽で、舞台に据えておく簡単な道具立。舟・山・宮・釣鐘などの形を模してつくった、舞台装置。
      1. [初出の実例]「ちゃやも、をんまつりのごとし。つくり物も同」(出典:申楽談儀(1430)奥書)
    9. 歌舞伎芝居の道具立。
      1. [初出の実例]「造り物、本舞台一面に嶮岨なる岩山」(出典:歌舞伎・鳴神(日本古典全書所収)(1742か))
  2. [ 2 ] 雅楽で高麗壱越調の一つ。廃曲。
    1. [初出の実例]「高麗壱越調〈略〉作物」(出典:拾芥抄(13‐14C)上)

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改訂新版 世界大百科事典 「作り物」の意味・わかりやすい解説

作り物 (つくりもの)

祭り,民俗芸能,能楽で用いる道具。祭り,民俗芸能では山(やま),塚,舟,御殿,山車(だし),鉾(ほこ)などの作り物が神のよりしろとしての意味をもつ。とくに中世に盛行した風流(ふりゆう)の芸態においては,踊りを主体とした〈風流踊〉に対して,作り物を中心とした〈作り物の風流〉が一類をなすほどに重視された。しかし,今日,芸能用語として一般に作り物というときは能楽に用いるそれを指す。

 能楽の作り物は,舞台装置に似て舞台上に設置される据え道具と,小道具に似て人物が携帯する手道具とに大別され,主として前者をいう。その原義は,演能のつど臨時に作り,終演後は解体する道具ということにあり,固定した既製品である小道具とは一線を画する。据え道具には《船弁慶》《兼平》《通盛》《江口》等に用いる舟,《熊野(ゆや)》《小塩(おしお)》等に用いる車,《楊貴妃》等に用いる宮殿,《景清》等に用いる藁屋(わらや),《紅葉狩》等に用いる山,《隅田川》等に用いる塚,《羽衣》《松風》等に用いる立木台,《半蔀(はじとみ)》の半蔀屋,《野宮(ののみや)》の鳥居,《道成寺》の鐘,《三井寺》の鐘楼などがあり,多くは竹を主要材料とし,象徴的と称されるほどきわめて簡素な,骨格のみを形づくった様式で,釘を用いず,白布で巻きあるいは紅緞(こうどん)(もみ絹)などをかける。据え道具は,演能の開始時(二場物の後場で用いるときは前ジテ中入(なかいり)後)に,後見(こうけん)が舞台に運び出して据え置くが,《船弁慶》の舟のようにアイの船頭の役が自身運び出す場合もある。手道具には,文(ふみ),短冊,矢,弓,釣竿,鞭(むち),打杖,サラエ(熊手),エブリ,持笹,持枝,花筐(はながたみ),松明(たいまつ),枕,笈(おい),旗,巻絹,幣,輿(こし)など広範囲の携帯道具がある。狂言でも作り物を用いる。手道具の類は能よりも種類が豊富で,多岐にわたるが,据え道具の類は,《花盗人》《花折》に用いる桜の立木,《鳴子》の藁屋,《蜘盗人》の塚などで,例は少ない。なお,能の作り物の作製はシテ方担当である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「作り物」の意味・わかりやすい解説

作り物
つくりもの

能と狂言の用語。簡素な、あるいは象徴的な舞台装置。一度製作して保存し反復使用する小道具に対することばで、上演のたびに新しくつくられるものという意味。現在では作り物も保存されることが多い。後見によって舞台に持ち出され、不用になると引いてしまう。竹で骨組をつくり、多く包帯状の白い布を巻く。『船弁慶』の舟、『熊野(ゆや)』の牛車(ぎっしゃ)などは輪郭を示すだけの単純なものだが、場面を変え、空間をくぎる優れた演出効果がある。『定家(ていか)』の塚、『黒塚(くろづか)』の荒野のあばら家などは人物を静止の状態で舞台に登場させるために用い、引回しという覆いを後見が下ろしてシテの姿を現す。『羽衣』の松、『吉野天人』の桜などの立ち木台もある。『松風』の潮汲(しおく)み車、『三井寺(みいでら)』の鐘楼などミニチュア化されて舞台に美観を添える作り物の一方、『道成寺(どうじょうじ)』の実物大の鐘は舞台につり上げられ、飛び込んだシテの姿を飲み込んだまま瞬時に落下させるなど、ダイナミックに用いられる例もある。役者が手にとって使用する、実物に近い弓、矢、熊手(くまで)、箒(ほうき)、幣(へい)なども、また、シテによって投げられ舞台の消耗品である『土蜘蛛(つちぐも)』の千筋の蜘蛛(くも)の糸も作り物である。なお、作り物の制作はシテ方の職責である。

[増田正造]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「作り物」の意味・わかりやすい解説

作り物
つくりもの

能の舞台装置。きわめて簡略化され,象徴的な表現で作られている。演能のたびにシテ方が作り,後見によって舞台に出し入れされる。おもに竹を骨として,細布を巻いたり,緞子 (どんす) でおおったりして作る。物によっては,木の枝や造花を添える。舟,車,塚,山,岩,宮殿,輿,鐘楼,わら屋,萩小屋,立木台,井筒,鐘などがある。狂言でも作り物を用いるが,例は少い。

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百科事典マイペディア 「作り物」の意味・わかりやすい解説

作り物【つくりもの】

能の舞台で用いる塚,立木,釣鐘など。簡素に模したものを作り,演能がすめば解体される。後見が運んで舞台にすえる。なお広義には,手で持つ道具のうち,毎回作り替える釣竿(つりざお),箒(ほうき)なども含める。いずれもシテ方が作製を担当する。

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世界大百科事典(旧版)内の作り物の言及

【小道具】より

… 日常に使用しているものをそのまま使うときは〈本物〉といい,特別に作ったものは〈拵(こしら)え物〉,使い捨ての消えてしまうろうそく,煙草(たばこ),食べ物を〈消え物〉,こわすことを目的とした皿,茶碗,三宝などを〈壊れ物〉,動く動物,鼻緒が切れる履物,しおれる草花,射られた態(てい)で立つ矢など,あらかじめ仕掛けを施した道具を〈仕掛物〉と呼称している。能,狂言では歌舞伎の大道具に該当する職掌はなく,能舞台に置く塚,建物,舟や車など象徴的な据え道具は〈作り物〉,手に持つ中啓,刀,釣りざお,持ち枝などを〈小道具〉または〈手道具〉とよんでいる。歌舞伎の小道具は,〈附帳(つけちよう)〉(演目ごとに各幕,各場別に用いる出道具の品目と,各登場人物の役名,配役名別に持物,冠り物,差し物,履物などを分類して記載した基本台帳)に記され,舞台稽古に間に合わせて劇場へ搬入される。…

【能】より

…謡の詞章と音楽と役者の所作ですべてを描き出すのだが,無装置であることがかえって観客の想像を豊かにし,劇空間の広がりをもたらしているということができる。能舞台
【作り物】
 能の演目によっては,竹を主材とする簡素な意匠の道具を舞台に据えることがある。これを作り物と称する。…

【風流】より

…これら貴族社会の風流は,しばしば朝廷から禁令が出るほどに華美なものであったが,南北朝期に入ると力をつけてきた町衆や地方の有力農民層にも浸透し,とくに彼らが担い手となった祭礼の芸能の中で大きく花開いた。このため,一般に風流と称した場合,室町時代の社寺の祭礼などに,さまざまな扮装や仮装で笛・太鼓・小鼓・鉦(かね)などに囃されて繰り出した〈囃子物(はやしもの)〉や,それからさらに発展して,趣向をこらした踊り衆がまわりについた〈風流踊〉,また文学や和歌の心を意匠化した風情ある〈作り物〉をいうのである。室町期成立の《下学集》にも,〈風流〉を〈風情の義也。…

※「作り物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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