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風胴 ふうどう

百科事典マイペディアの解説

風胴【ふうどう】

空気中を運動する物体が空気から受ける力や,自然風が地上の構築物に与える影響などを調べるため,風路中に人工的に気流を作り,その中に模型を置いて各種の測定を行う設備。
→関連項目ジュコーフスキービル風

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世界大百科事典 第2版の解説

ふうどう【風胴 wind tunnel】

人工的に一様な気流をつくり,その中に置いた物体(主として模型)に働く力やモーメント,あるいはそのまわりの圧力分布や風速分布を測定したり,流れの状態を可視化して調べたりするための装置。もともと航空機の空気力学的研究の実験装置として発達したものであるが,自動車鉄道車両空気抵抗の測定のほか,橋梁,鉄塔,煙突,あるいは高層ビルなどの風に対する強度を調べるためにも用いられてきた。つり橋や鉄塔,煙突は風下側に流出する渦のために振動が起こり,破壊する事故が多かった。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

風胴
ふうどう
wind tunnel

一様な空気の流れを人工的につくりだし、流れの中に置かれた物体による流れの変化の状態、逆に流れが置かれた物体に及ぼす影響、あるいは流れの中の物体の運動などを調べる装置。初めは航空機の設計や研究に用いられていたが、現在では自動車、鉄道車両、自転車、船舶などの設計、高層ビル、塔、橋梁(きょうりょう)など構造物に対する風の影響、防災や環境整備のための特定市街地域での風と建築物との関係、山岳によって発生する乱気流の解析などにも利用され、また、スキーのジャンプや滑降競技、自転車競技などでの選手の姿勢の研究や風圧に対する選手の訓練、あるいは用具の開発などの用途もある。[落合一夫]

航空機と風胴

広範囲に風胴を利用してきたのは航空機である。縮尺模型、または実際の機体をそのまま用いて、揚力、抗力、モーメントなどの機体に働く空気力を測定するほか、翼型や翼だけの空気力学的特性を測定したり、翼や胴体の表面の空気の流れの状態や圧力の分布状態、翼と胴体との結合部分などの流れの干渉状態、離着陸や低空飛行の場合に地表面が飛行機に及ぼす影響、そのほか航空機の性能や空気力学的な特性について、計算だけでは予測できない現象を観察、測定することができる。航空機は空気を対象とするので、計算結果がかならずしも実際と一致するとは限らない。そこで、新しく航空機を開発するとき、まず縮尺模型による風胴試験を行って、あらかじめ空気力学的特性や機体周囲の空気の流れの状態を調べ、欠陥を修正しておけば、実機が完成したときにぐあいの悪い部分が生じることは少なく、また改修するにしてもごく狭い範囲で足りる。いきなり実物を製作して試験を行うのと比較して、模型の段階でならば試験や改善を実機よりも容易に行うことができ、手間や費用、時間の節減ができ、安全である。また、風胴試験は航空機事故の原因の探究にも利用される。
 しかし、風胴試験も万能ではない。〔1〕縮尺模型を使用すると、寸法効果(レイノルズ数の違い)によって風胴試験の結果と実機の飛行試験の結果が一致しにくい、〔2〕風胴ごとにそれぞれ特性が異なり、同じ模型でも使用した風胴によって測定結果に多少の相違が生じる、〔3〕遷音速から超音速にかけての高速度の気流を得ることがむずかしい、などの問題点があり、風胴の構造や様式にいろいろの対策やくふうが凝らされている。[落合一夫]

風胴の種類

試験の目的に応じてそれぞれ適当な様式の風胴が使用される。
(1)目的別の分類 〔1〕遷音速および超音速風胴―高速機の試験用。ごく短時間しか速い流速を持続できないものが多い。〔2〕高圧(変圧)風胴―模型による試験結果を実機に近づける、つまりレイノルズ数をそろえるために、空気の圧力を高め密度を大きくする。〔3〕ガス風胴―密度の大きいガスを使用し、レイノルズ数をそろえる。〔4〕実物風胴―実機をそのまま使用する。〔5〕自由飛行風胴―模型を気流の中で自由に運動させてその動きを観察する。〔6〕垂直またはきりもみ風胴―きりもみ運動を観察する。〔7〕煙(けむり)風胴―煙の筋(すじ)をつくって機体の周囲の気流の状態を観察する。
(2)空気を流す様式による分類 〔1〕空気を環流させる型―ゲッティンゲン型。効率の面から、現在もっとも多く使われている。〔2〕環流させない単一風路型―NPL型、エッフェル型など。
(3)測定部分の位置による分類 〔1〕開口型―測定部分を開放した室内に置く。低速の風胴に用いられる。〔2〕閉回路型―測定部分を密閉した回路の中に置く。高速の風胴に用いられる。
 風胴のランクは、主として風速と気流の噴き出し口の面積の大きさで判定され、大きいものほどランクは高い。噴き出し口が大きければ大型の模型が使用でき、測定精度もよくなるが、建設費や運用費も多くかかる。[落合一夫]

試験方法とその変遷

測定部に縮尺模型または実機を細いピアノ線か支柱、腕(ステング)などで支える。模型に風を当てて生じた種々の力を、ピアノ線や支柱・腕に仕掛けた秤(はかり)で測定し、測定結果を総合して空気力学的諸力を算出する。この方式はライト兄弟の創始といわれるが、現在も原理的には大きな違いはない。しかし、古くからの方法は風胴天秤(てんびん)を用いて人力で行っていたので、熟練した人手を多く必要とするうえ、計算にも時間を要して能率的でなかった。現在は風胴天秤のかわりにひずみ計を使い、測定結果を直接コンピュータに入力して計算させるので、正確なデータが短時間で得られる。なお、ピアノ線で模型を吊(つ)る方式は、低速機を除いて現在では用いられない。
 風胴の運転は風速が音速の50%程度までなら容易である。しかし、遷音速や超音速になると、測定部に衝撃波が生じたり、閉塞(チョーク)状態となって測定が困難になるばかりでなく、高速度の気流をつくりだすために莫大(ばくだい)な動力源を必要とし、運転中の騒音も非常に大きくなり、運用がきわめて困難になる。外国では風胴を山岳地帯に建設して発電所から直接電力の供給を受け、かつ騒音による公害を避けているところもある。最近では、コンピュータの発達に伴ってコンピュータによるシミュレーションが行われるようになった。すなわち、コンピュータに風胴試験と近似した数値を与えておき、計算結果をコンピュータ・グラフィックで表現させるものである。この方法だと模型を製作する必要がなく、測定にあたっては実際に風を吹かすことなくコンピュータに数値を入力するだけでよい。これにより、騒音や動力の問題が解決され、とくに衝撃波の影響を受ける高速飛行の空力的特性を調べるのに好適と考えられている。
 しかし、航空機は翼だけでなく胴体や尾翼、着陸装置、エンジンなどによって構成されており、その相対的な関係から機体全体の空力的特性を調べるには、コンピュータ・グラフィックのみではまだ十分とはいいきれない。最終的には模型(または実物)に実際に風を当てて確かめてみる必要がある。
 また超音速飛行の諸現象は理論的な解明が比較的容易であるのに対し、現代の航空機は経済性や実用性の面から音速以下の速度をもつ機体が多く開発されており、この目的には現在使われている風胴が十分に利用でき、コンピュータの普及・発達に伴って測定精度を高めながら、今後もさらに広く用いられていくものとみられる。[落合一夫]

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