航空機が飛行中に受ける動揺のこと。大気の流れの中に回転の向き、回転軸の方向の違う大小さまざまな渦があるとき、渦の回転方向と基本流の方向が同じ場合には風は強く、反対だと弱くなる。こうして風は振幅や周期の異なる変動をする。
[中山 章]
風の時間平均値からの差(変動量)を2乗したものが乱れのエネルギーだが、航空機が揺れるにはこの乱れのエネルギーが必要で、軽い小型機は小さいエネルギーでも揺れ、重い大型機では大きいエネルギーでないと揺れない。乱流理論によれば、乱れのエネルギーは基本流の鉛直シア(鉛直方向での風の変化)と成層の不安定によってつくられる。
乱気流の強さを決めるもう一つの条件は渦の大きさである。非常に小さい渦は乱れのエネルギーも小さく、機体に一様に作用する。また機体よりもはるかに大きい渦では機体全体が流れの中に入るため、いずれの場合も乱気流はない。しかし、航空機よりある程度大きい渦の場合には、飛行速度が大きいため、航空機の各部に違った力が作用し複雑な運動となる。現用の大型機では10メートル~1キロメートルくらいの渦がこれに該当する。したがって、大型機に対する強い乱気流の発生には、この大きさの渦のエネルギーが大きいことが条件で、たとえば晴天乱気流では、ケルビン‐ヘルムホルツ波Kelvin-Helmholtz wave(K‐H波。ケルビン‐ヘルムホルツ不安定波、K‐H不安定波ともいう)はこの条件を満たしている。
[中山 章]
ウインドシアwindshearは水平方向、鉛直方向に風向や風速の急激な変化がある状態の中を飛行する航空機が、単位時間に受ける風の変化量(ベクトル)として表される。これは周期の長い変動をもった風の急変が関係する。対地速度VG、対気速度Va、風ベクトルUの間には
VG=Va+U
の関係が成り立つ。大型機は大きな慣性をもっているから、風の急変に遭遇してもごく短い時間(Δtとする)は対地速度は変化せず、ΔVG/Δt=0である。したがって、-(ΔVa/Δt)=ΔU/Δtとなる。追い風が増す場合や、向い風が減ずる場合は右辺が正であるから対気速度は減少し、その結果、揚力も減少する。また、前記の関係式はベクトルであるから、突然に下降流域に入ると、航空機の姿勢は変化しないが、気流の方向が変わるので、迎え角は小さくなり揚力は減少する。大型機の事故はウインドシアによるものがもっとも多く、マイクロバーストはその一つである。変動周期の短い風は乱気流に影響し、長いものはウインドシアとして揚力に関係するが、これらは共存していることが多い。もちろん、乱気流による航空機の複雑な運動も揚力に関係するが、航空気象ではそこまでは考えない。気象現象としてみると、乱気流やウインドシアは、積乱雲、晴天乱気流(ケルビン‐ヘルムホルツ波)、風下波(山岳波)、低層地形による乱流に伴って発生する。また、乱気流による航空機の振動は、乗客に不快感を与えるばかりでなく金属疲労の原因にもつながる。
[中山 章]
『小倉義光著『お天気の科学――気象災害から身を守るために』(1994・森北出版)』▽『中山章著『最新 航空気象――悪天のナウキャストのために』(1996・東京堂出版)』▽『大野久雄著『雷雨とメソ気象』(2001・東京堂出版)』▽『加藤喜美夫著『航空と気象ABC』3訂版(2003・成山堂書店)』
大気の乱流をいう。乱流とは流体力学上の用語で,流体の各部分が平均流のまわりに不規則な運動をしながら流れる状態をいう。これに対して各部分が規則正しく流れる状態を層流という。層流から乱流への転移は,臨界レーノルズ数を超えたときに起こることが知られている。大気中では空気の運動は乱流状態になっていることがほとんどである。大気乱流を起こす渦の大きさは直径数cmのものから直径数千kmの大きさのものまで,連続した広い帯域にわたっている。小規模な大気中の乱流は,地表面近くの境界層内で最も大きく,その性質は地表面の状態(陸地か海か,あるいはでこぼこしているか氷などのように滑らかか)や大気の安定度によって大きく変わってくる。また乱流によって,分子運動論的な拡散によるよりもはるかに大きい度合で,質量,運動量,熱,水蒸気などの輸送や交換が行われていることが特徴的なことである。乱流を発生させるエネルギーからその乱気流を分類すると次のようになる。
(1)対流性乱気流 熱気泡や積雲型の雲の中にある乱気流。(2)力学的乱気流 地形の凹凸や建築物あるいは風のシアーなどによって発生する乱気流,ビル風などがある。(3)山岳波の中の乱気流 一般流と山岳風下波の相互作用で発生する。(4)高高度乱気流 2万フィート(約6100m)以上の高高度で発生し,晴天乱気流clear air turbulence(略称CAT)と呼ばれている。(5)人工乱気流 飛行機の起こすじょう乱によって飛行機の航跡に残る乱気流。
1966年3月5日に,BOACのボーイングB707型機が富士山上空で空中分解したのは山岳波の中の乱気流によるものだとされている。
執筆者:花房 竜男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 パラグライダー用語辞典について 情報
…安全に離着陸するためには,風,雨,雲,霧,気温などの通報や予報は欠かせない。さらに飛行中には,危険を避けるため乱気流,着氷,雷,トルネードなどに関する情報が必要であり,追風を利用し経済的に飛行するため上層の風に関する情報も必要である。このような要求に応じるため,各国の気象機関では,地上,上層の気象観測を行い,各種天気図を解析し予報を作り各航空会社へ通報するほか,航空用の各種気象データを放送している。…
※「乱気流」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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