改訂新版 世界大百科事典 「駆込」の意味・わかりやすい解説
駆込 (かけこみ)
欠入,走入とも称し,人に追われて逃げ場を失い,近辺の屋敷,寺院などに避難して保護を受ける行為,またそのような行為が社会的に定型化されたものとしての慣行をいう。日本の中世・近世社会に広く見られるものである。江戸時代,鎌倉松ヶ岡の東慶寺や上野国世良田の満徳寺が縁切寺として,寺内へ駆け込んだ女性に離婚の成立する慣行があったことはよく知られている。また奥州の守山藩では罪を犯した百姓たちが,その菩提寺などに駆け入り,〈寺抱え〉となることによって藩の処罰をうけずにすむ慣行が存在していた。このほかに,過失から出火をなした者が付近の寺院に入って謹慎した(〈火元入寺〉と称する)のも駆込の一種とみられる。駆込慣行はまた武家の屋敷をも対象にしてなされており,離縁を求める女性が武家屋敷に駆け込んで希望をかなえるもの,主人の手討ち成敗から逃げ出した下僕が他家の屋敷に駆け込んで保護を求めるもの,そしてけんか闘争から他人を討ち果たした武士が近辺の武家屋敷に駆け込んで保護を求めた場合,屋敷の主は責任をもって追捕の手からこの者を守らねばならず,安全なときに安全な場所に落ち延びさせるという慣行が江戸時代を通じて広く行われていた。これらの慣行にあっては,駆込者を受け入れる寺院や屋敷に外部からの追及を遮断する力能が存在しているのであって,このような不可侵的な領域は一般にアジール(逃避所)と呼ばれ,日本の前近代社会のみならず世界各地に見られるものである。
→アジール
執筆者:笠谷 和比古
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報