黒穂病(読み)クロボビョウ(英語表記)smut

翻訳|smut

デジタル大辞泉 「黒穂病」の意味・読み・例文・類語

くろぼ‐びょう〔‐ビヤウ〕【黒穂病】

黒穂菌が寄生して生ずる植物の病害。病斑を作り、黒色の粉が充満する。稲・麦・トウモロコシ・ネギなどに多くみられる。

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精選版 日本国語大辞典 「黒穂病」の意味・読み・例文・類語

くろぼ‐びょう‥ビャウ【黒穂病】

  1. 〘 名詞 〙 大麦、小麦、粟、トウモロコシなどの穂に、黒穂病菌が付着、侵入して黒色の粉(黒穂胞子)を生じる病気。黒穂。かわつき

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改訂新版 世界大百科事典 「黒穂病」の意味・わかりやすい解説

黒穂病 (くろぼびょう)
smut

植物の穂あるいは花の部分に,ぎっしりと黒い粉(黒穂胞子)が詰まって実が正常に実らない病気。オオムギ,コムギ,トウモロコシ,サトウキビ,ママコノシリヌグイなどでよく見られる。黒穂病菌(クロボキン)は担子菌類のクロボキン目Ustilagnalesに属する菌の総称で,いずれも自然条件では生きた植物(被子植物)に寄生する。世界では約35属1100種が知られており,日本には17属が分布している。寄主植物の茎,葉,花などに胞子堆が発達し,内部に多量の黒穂胞子ができる。名前のとおり穂に胞子堆のできることが多い。代表的な属にUstilagoEntylomaTilletiaSphacelothecaなどがある。オオムギ,コムギの裸黒穂病は,穂の部分の種皮が破れて黒穂胞子が飛び出すが,堅(かた)黒穂病では種皮は破れずに黒粉を包む。コムギ腥(なまぐさ)黒穂病も種皮中に黒穂胞子が詰まっていて,つぶすと生臭いにおいがある。コムギから(稈)黒穂病は穂でなく稈(かん)や葉の組織中に黒穂胞子ができる。トウモロコシ黒穂病にかかると,穂は奇形となり黒粉を露出するので〈お化け〉とも称される。裸黒穂病は菌類病の中では特殊な感染様式をもっている。風で運ばれてめしべ柱頭に付着した黒穂胞子は,発芽して子房内の胚に入り,潜在休眠後翌年種が発芽し植物が生長するにつれて菌も発達し,穂に至って発病を起こす。播種(はしゆ)時には罹病種子も一見健全種子と区別がつかない。病種子から生じた個体はどの分げつでも黒穂をつけるのがつねである。堅黒穂,から黒穂,トウモロコシ黒穂では,種子に胞子が付着して伝染したり,土壌伝染する。裸黒穂病を防ぐには冷水温湯浸法または風呂湯浸法など種子の熱消毒が有効である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「黒穂病」の意味・わかりやすい解説

黒穂病
くろほびょう

担子菌類のクロボキンによる植物の病気で、単子葉植物、とくにイネ科植物に多く発生する。黒穂病にかかると多くの場合、花とくに子房が侵され、黒い粉を生ずる。種類が多くムギだけでも裸(はだか)黒穂病、なまぐさ黒穂病、稈(から)黒穂病、堅(かた)黒穂病がある。このほかトウモロコシ黒穂病、タマネギ黒穂病などの被害が大きいほか、イネ墨(すみ)黒穂病、モロコシ糸(いと)黒穂病などがある。

 これらの黒穂病の病原のおもな属は、ウスティラゴUstilago、ティレティアTilletia、ウロシスティスUrocystisなどである。もっとも代表的なものは、ウスティラゴ属菌の寄生によっておこるオオムギおよびコムギの裸黒穂病で、病気にかかると穂が黒くなる。黒い穂は病原菌厚膜胞子の塊で、風によって飛散し、開花中のムギの花の柱頭から侵入し子房の中に潜伏する。翌年感染した種子が播(ま)かれると菌は苗の成長(生長)点に達し、出穂(しゅっすい)時には穂全体が侵され黒い穂になる。トウモロコシ黒穂病もウスティラゴ属菌の寄生による。茎、葉、種子などにこぶをつくり、その中に黒い粉が充満している。とくに種子の肥大が著しく「おばけ」ともよばれる。ムギなまぐさ黒穂病は、外観は健全にみえるが、種子を割ってみると黒褐色の粉が充満しており、生臭い悪臭を放つ。病原菌はティレティア属である。

 黒穂病はいずれも種子によって伝染するので、冷水温湯浸などの熱処理、または薬剤による種子消毒を行って防除する。

[梶原敏宏]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「黒穂病」の意味・わかりやすい解説

黒穂病
くろぼびょう
smut

黒穂菌の寄生によって起る植物の病気。カヤツリグサ科およびイネ科に寄生する。特に穀物につくので注目されている。これにおかされた茎,葉,花部などは真黒な厚膜胞子が塊のようになって生じる。厚膜胞子は発芽して1列に並んだ細胞から成る担子基を生じ,これに担子胞子が生じ,これが再び寄生主に達して寄生する。麦類につくものでは開花期にこの菌におかされたものの穂が黒くなって多数の厚膜胞子を生じ,これが花に飛入り籾の中にとどまって翌年麦の発芽時に体内に入って,再び黒い穂を生じるので大害がある。そのため麦の発芽時に種籾を温湯や薬剤液に漬けて殺菌,菌の侵入を防ぐ方法が行われている。とうもろこしにつく種では雄花,雌花,茎などについて柔らかな饅頭のような塊をつくるので,とうもろこしのお化けと呼ばれる。厚膜胞子はこの組織内にできる。まこもにつく種では,その地下茎がおかされ,地下茎はたけのこのような形に太くなる。これは若いうちは食用になるが,古くなると内部の組織がこわされ,黒い厚膜胞子の塊となる。古くにはこれをまこもの根墨と呼び,乾燥して粉にし,漆器をつくるとき木目に塗り込んで,漆塗りの下地作りに用いた。

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飼料作物病害図鑑 「黒穂病」の解説

黒穂病(トウモロコシ)

植物体の奇形を伴う糸状菌病。梅雨明け頃から、外部は白色で中に黒い粉のつまったゴール(肥大組織)を形成し、葉、節、穂に発生する。ゴールは成熟すると表面が破れ、中の黒い粉(黒穂胞子)を飛散してまん延する。黒穂胞子は厚膜胞子でもあり、地面に落ちて翌年の伝染源となり、地中で5年位は生きているとされる。病原菌には多数のレースおよびバイオタイプがあるとされるが、日本では未確認である。

黒穂病(セントオーガスチングラス)

1998年5月に沖縄県今帰仁村の芝地で発生を確認した。病徴は出穂開花後 に種実が黒穂化し,表面は初め灰色の薄い外皮に被われるが,すぐに破れて黒粉(黒穂胞子)を飛散する。穂のほとんどすべての種実が侵されるため,穂は濃褐 色粉状を呈する。やがて黒穂胞子はすべて飛散し,花軸だけが残る。

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百科事典マイペディア 「黒穂病」の意味・わかりやすい解説

黒穂病【くろほびょう】

担子菌類クロボキン目に属する菌類の寄生による植物の病気。オオムギ,コムギ,カラスムギ,トウモロコシなどを冒し,多くは穂,時に茎葉に黒色の病斑を生じる。腥(なまぐさ)黒穂病,裸黒穂病,堅(かた)黒穂病,墨黒穂病など種類が多い。防除は主として種子消毒による。

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