翻訳|smut
植物の穂あるいは花の部分に,ぎっしりと黒い粉(黒穂胞子)が詰まって実が正常に実らない病気。オオムギ,コムギ,トウモロコシ,サトウキビ,ママコノシリヌグイなどでよく見られる。黒穂病菌(クロボキン)は担子菌類のクロボキン目Ustilagnalesに属する菌の総称で,いずれも自然条件では生きた植物(被子植物)に寄生する。世界では約35属1100種が知られており,日本には17属が分布している。寄主植物の茎,葉,花などに胞子堆が発達し,内部に多量の黒穂胞子ができる。名前のとおり穂に胞子堆のできることが多い。代表的な属にUstilago,Entyloma,Tilletia,Sphacelothecaなどがある。オオムギ,コムギの裸黒穂病は,穂の部分の種皮が破れて黒穂胞子が飛び出すが,堅(かた)黒穂病では種皮は破れずに黒粉を包む。コムギ腥(なまぐさ)黒穂病も種皮中に黒穂胞子が詰まっていて,つぶすと生臭いにおいがある。コムギから(稈)黒穂病は穂でなく稈(かん)や葉の組織中に黒穂胞子ができる。トウモロコシ黒穂病にかかると,穂は奇形となり黒粉を露出するので〈お化け〉とも称される。裸黒穂病は菌類病の中では特殊な感染様式をもっている。風で運ばれてめしべ柱頭に付着した黒穂胞子は,発芽して子房内の胚に入り,潜在休眠後翌年種が発芽し植物が生長するにつれて菌も発達し,穂に至って発病を起こす。播種(はしゆ)時には罹病種子も一見健全種子と区別がつかない。病種子から生じた個体はどの分げつでも黒穂をつけるのがつねである。堅黒穂,から黒穂,トウモロコシ黒穂では,種子に胞子が付着して伝染したり,土壌伝染する。裸黒穂病を防ぐには冷水温湯浸法または風呂湯浸法など種子の熱消毒が有効である。
執筆者:寺中 理明+椿 啓介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
担子菌類のクロボキンによる植物の病気で、単子葉植物、とくにイネ科植物に多く発生する。黒穂病にかかると多くの場合、花とくに子房が侵され、黒い粉を生ずる。種類が多くムギだけでも裸(はだか)黒穂病、なまぐさ黒穂病、稈(から)黒穂病、堅(かた)黒穂病がある。このほかトウモロコシ黒穂病、タマネギ黒穂病などの被害が大きいほか、イネ墨(すみ)黒穂病、モロコシ糸(いと)黒穂病などがある。
これらの黒穂病の病原のおもな属は、ウスティラゴUstilago、ティレティアTilletia、ウロシスティスUrocystisなどである。もっとも代表的なものは、ウスティラゴ属菌の寄生によっておこるオオムギおよびコムギの裸黒穂病で、病気にかかると穂が黒くなる。黒い穂は病原菌の厚膜胞子の塊で、風によって飛散し、開花中のムギの花の柱頭から侵入し子房の中に潜伏する。翌年感染した種子が播(ま)かれると菌は苗の成長(生長)点に達し、出穂(しゅっすい)時には穂全体が侵され黒い穂になる。トウモロコシ黒穂病もウスティラゴ属菌の寄生による。茎、葉、種子などにこぶをつくり、その中に黒い粉が充満している。とくに種子の肥大が著しく「おばけ」ともよばれる。ムギなまぐさ黒穂病は、外観は健全にみえるが、種子を割ってみると黒褐色の粉が充満しており、生臭い悪臭を放つ。病原菌はティレティア属である。
黒穂病はいずれも種子によって伝染するので、冷水温湯浸などの熱処理、または薬剤による種子消毒を行って防除する。
[梶原敏宏]
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