一国の国民(個人、企業など)の全体が、生産活動に参加したことによって一定期間(四半期、1年など)に受け取った所得の総額を示すもの。GNIと略称される。国内総生産(GDP)に海外からの所得を加えて、海外に対する所得を差し引いたものと定義される(後述)。ここで、国民とは国籍を有しているかどうかを意味するものではなく、その国を拠点として活動している人(居住者)をさす。
GDPとGNIの関係は以下のとおりである。
GDPは、国内、すなわち一国の領土内で行われた生産活動によって一定期間(四半期、1年など)に生産された付加価値の総額であり、この付加価値は、生産にかかわった労働者の賃金総額(雇用者報酬)、企業の利益(営業余剰・混合所得)などに分配される。
一方、この分配先は国内には限らない。たとえば、企業の利益の一部は、配当として株主に配分されるが、株主には外国に住んでいる投資家もいるためである。労働者のなかにも、期間限定で日本に出稼ぎにきている者もいるであろう。国民が得た所得を計測するには、これらの所得(海外に対する所得)をGDPから取り除く必要がある。
さらに、日本に住んでいる投資家のなかには、外国企業の株主で、その企業から配当金を受け取っている人もいるし、外国に短期間の出稼ぎに行く日本の労働者もいる。国民が得た所得には、こうした所得(海外からの所得)も含める必要がある。
なお、GNIという名前は、1993年に国際連合(国連)で合意された国民経済計算(SNA)の基準(1993SNA)で初めて導入された。それまでは国民総生産(GNP)とよばれていた。計算は同一であるが、所得概念であることをより明確にした。
一方、物価変動の影響を取り除いた実質値でみると従来の実質GNPと実質GNIはかならずしも等しくならない。従来の実質GNPには輸出入の実質的な数量差による純輸出は含まれるものの、輸出入価格指数(デフレーター)の差によって生じる所得の実質額(交易利得)はカウントされていなかったためである。実質GNIでは、所得を実質化する際に「交易利得」を加え、国民が受け取った実質的な所得をより的確に表すことにした。
2019年(令和1)12月に公表された年次推計(2018年度国民経済計算)によると、2018年(平成30)の名目GNIは567.1兆円である。同年の名目GDPは547.1兆円であり、日本は国内の生産活動で得た付加価値のほかに、グローバル化の進展により海外から20兆円の所得の純受取(=受取-支払い)があることがわかる。
[飯塚信夫 2020年9月17日]
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