日本大百科全書(ニッポニカ) 「調理器具」の意味・わかりやすい解説
調理器具
ちょうりきぐ
調理をするために使用する道具。人類が調理器具を使用し始めた歴史は非常に古いと思われる。すなわち、採取した魚貝類や動物を適当な大きさにさばいたり、殻から出したりするうえにおいて、石包丁などの器具は必要欠くべからざるものであったはずである。また、焼き串(ぐし)にあたる木や竹の棒でつくった串などの使用もあったはずだし、のちには煮炊きに使用するくぼんだ石、あるいは穀物を粉砕するための平らな石と丸い石、水を加えて粉をこねる板のようなものも必要として、発達してきたと思われる。
歴史
人類が調理器具を使用し始めた時期は旧石器時代と推定できる。おそらく石の破片などが用いられていたであろう。また日本の古代の遺跡からも、石斧(いしおの)、石包丁、石臼(うす)、甕(かめ)、壺(つぼ)といったものが発見されている。魚類の調理は黒曜石やその他刃物状の道具で調理されていたようである。そして、縄文時代、弥生(やよい)時代になり、本格的な土器の出現により調理技術や器具は一段と進歩したと考えてよいだろう。弥生時代には米を蒸す甑(こしき)などがすでに存在していた。弥生時代には臼、杵(きね)などもあり、徐々にではあるが金属調理器も出現し始める。平安時代には、銅を使用した調理器具なども使われるようになった。鎌倉時代には、金属の刃物をはじめ、すり鉢、おろし皿のようなものをはじめ、各種の調理器具がつくられるようになった。
また海外においては、銅から鉄へ、さらにアルミニウム、ステンレスなどを使用した調理器具も発達し、近代では電気、ガスの使用が可能となるとともに、複雑な調理器具も利用されるようになっている。たとえば加熱方法にしても、単に直接熱源から調理器具を加熱するのではなく、電波を使用する電子レンジ、磁力線を利用して鍋自体を発熱させる電磁調理器などをはじめ、モーターの回転を利用するミキサーなどの調理器具、また冷却力を利用する冷蔵、冷凍などの調理器具もできるようになった。
[河野友美・大滝 緑]
種類
調理器具は大きく分けると、材料を処理するための基本の器具と、それを加熱したりあるいは冷やしたりするような直接調理する器具に分けることができる。また、できあがった料理を器に盛るとか、あるいは、肉を取り分けるようなナイフ、フォーク、サーバーといったものも必要である。こういったものを区分していくと、非常に膨大な種類の調理器具があるのに気がつく。
まず材料処理をするものとしては、包丁のような刃物、ものを洗うための籠(かご)やざる、あるいは、すりおろしたりこねたりするような道具がある。加熱調理をする器具では、鍋(なべ)、釜(かま)、フライパン、オーブンといったものがあげられる。またこれらの加熱調理を補助するものとして、串や箸(はし)もなくてはならないものである。加熱調理の反対に冷やすものとしては、冷蔵庫も一つの調理器具とみなすことができるし、氷で冷やすために氷を割るなど処理するアイスピックのような調理器具も必要である。できた料理はさらに容器に取り分ける必要があり、これらすべてが調理器具として含まれる。
[河野友美・大滝 緑]
装飾としての器具
調理器具のなかには、特殊な鍋や食器のように、普段は使用しないが、装飾品として、壁などにかけて部屋のアクセサリーとして使用されるものもある。とくに各種の鍋などにそれが多い。これらは、銅を主材とし、きれいに磨き上げられたものが多い。こういったものには代々その家庭に受け継がれてきて、たいせつにされているものが多い。
[河野友美・大滝 緑]