Education for Sustainable Developmentの略。環境や貧困、人権など世界の諸問題を自らの課題としてとらえ、持続可能な社会づくりのため主体的に行動する力をつける教育。
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持続可能な開発のための教育Education for Sustainable Developmentの頭文字を取った略語。地球的視野で考え、さまざまな課題を自らの問題としてとらえ、身近なところから取組み、持続可能な社会づくりの担い手となるように人々を育成し、意識と行動を変革することを目的とする教育。初等中等教育段階では、「開発」ということばでは意味が限定されてしまうため「持続可能な発展のための教育」と改めている。「持続発展教育」と略称される。
[篠原文陽児]
ESDは、国連「環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)」の報告書「われら共通の未来Our Common Future」(1987)の中心的な考え方である「将来の世代が自らのニーズを充足する能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発を可能とする教育」に端を発する。
その後、1992年開催の「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」において、持続可能な開発についての国際的な取組みに関する行動計画である「アジェンダ21」が採択され、その第36章「教育、人々の認識、訓練の推進」にESDの重要性とその取組みの指針が盛り込まれた。2002年9月に開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)」での実施計画(持続可能な開発に関する世界首脳会議実施計画)を論議・立案する過程で、日本は2005年から2014年までの10年間を「持続可能な開発のための教育の10年(ESDの10年、DESD)」とする提案を行った。その結果、ユネスコ(国連教育科学文化機関)を主導機関としてESDを推進するという決議が採択された。2005年9月には、ユネスコが中心となって各国の具体的対応の指針となる「国際実施計画」が策定された。国際実施計画では、DESDの全体を貫く目標は、「持続可能な開発の原則、価値観、実践を、教育と学習のあらゆる側面に組み込むこと」とされている。
日本では、2005年(平成17)12月、内閣にDESD関係省庁連絡会議が設置され、2006年3月に「国内実施計画」が策定された。学校等の公的教育だけではなく、社会教育、文化活動、企業内研修、地域活動などあらゆる教育や学びの場において、文部科学省、環境省、経済産業省など関係各省、NGO、企業等が相互に連携しつつ、人権教育、異文化理解、男女共同参画社会の構築、環境教育の推進に積極的に力を入れることとしている。また、人格の発達や、自律心、判断力、責任感などの人間性を育むという観点、個人が他人、社会、自然環境との関係性のなかで生きていることを自覚し、「かかわり」や「つながり」を尊重できる個人を育むという観点が必要であると明記している。ESDにおける教育の範囲とは、環境、福祉、平和、開発、ジェンダー、子供の人権、国際理解、識字、エイズ、紛争防止など多岐にわたることになる。
[篠原文陽児]
ESDは、環境・経済・社会と文化という相互に複雑に関連している三つの領域に注目しながら進める、きわめてホリスティック(全体論的)な目標を内包した活動である。その結果、すべての人が質の高い教育の恩恵を享受し、また、持続可能な開発のために求められる原則、価値観および行動が、あらゆる教育や学びの場に取り込まれ、持続可能な将来が実現できるような価値観と行動の変革をもたらすことが期待されている。
ESDは、持続可能な将来に向けての価値観の共有を目標としており、世界規模で持続可能な開発を図るうえでは、開発途上国が直面する諸問題に対する理解の強化と開発途上国の諸主体との連携および協力の強化によるミレニアム開発目標の達成が先進国に求められる。先進国における消費・生産活動をはじめとする社会・経済活動と、開発途上国における持続可能な開発にかかわる貧困等の諸問題は、相互に密接につながっており、これらについても統合的に扱っていくことが重要である。
なお、実際の教育の場面で、児童・生徒に「持続発展教育」という言葉を浸透させる必要はないが、概念を伝えなくてはならない。それには、よりわかりやすい表現を工夫する必要があるが、その取組みは十分とはいえない。2008年(平成20)および2009年に改訂された幼稚園教育要領と学習指導要領等に基づき、総合的な学習の時間、理科、社会等の学習において、「持続可能な開発のための教育」を充実強化していくことが求められている。
[篠原文陽児]
ESDの基本的視座として位置づけられている教育の目標が「教育の四つの柱」である。これは情報化社会、生涯学習社会を視野に入れ、21世紀を生き抜くための教育の哲学と実践の指針として、ユネスコ(国連教育科学文化機関)21世紀教育国際委員会が1996年に刊行した報告書『学習:秘められた宝』の第4章に記されている。「学習の四本柱」ともいわれる。
「知ることを学ぶLearning to know」「為すことを学ぶLearning to do」「他者とともに生きることを学ぶLearning to live together」「人間として生きることを学ぶLearning to be」の四つを指す。
「教育の四つの柱」のそれぞれは、次のように記されている。
(1)「知ることを学ぶ」とは、十分に幅の広い一般教養をもち、特定の課題については、深く学習する機会を得ながら「知ること」を学ぶこと。
(2)「為すことを学ぶ」とは、多様な状況に対処し、他者とともに働く能力を涵養するために学ぶこと。
(3)「他者とともに生きることを学ぶ」とは、一つの目的のために、ともに働き、人間関係の反目をいかに解決するかを学びながら、多様性に価値をおいた相互理解と平和の精神に基づき、他者を理解し、相互依存を評価すること。
(4)「人間として生きることを学ぶ」とは、個人の人格をいっそう発達させ、自律心、判断力、責任感をもってことにあたることができるよう、「人間としていかに生きるか」を学ぶこと。
教育の四つの柱の中核的理念は「価値観の共有化」である。この理念に沿って人権教育、異文化理解、男女共同参画社会の構築、環境教育というESDが進められている。日本の学校段階では、とくにユネスコスクールがその推進役を担っている。
[篠原文陽児]
『ユネスコ「21世紀教育国際委員会」編、天城勲監訳『学習:秘められた宝――ユネスコ「21世紀教育国際委員会」報告書』(1977・ぎょうせい)』▽『サラ・ジェームズ、トルビョーン・ラーティ、高見幸子監訳・編著『スウェーデンの持続可能なまちづくり――ナチュラル・ステップが導くコミュニティ改革』(2006・新評論)』▽『降旗信一・高橋正弘編著、阿部治・朝岡幸彦監修『現代環境教育入門』(2009・筑波書房)』▽『吉田敦彦著『世界のホリスティック教育――もうひとつの持続可能な未来へ』(2009・日本評論社)』▽『西條剛央・京極真・池田清彦編著『持続可能な社会をどう構想するか――構造構成主義研究』(2010・北大路書房)』
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
出典 (株)ジェリコ・コンサルティングDBM用語辞典について 情報
…7075合金は亜鉛5.5%,マグネシウム2.5%,銅1.6%で,引張強さ60kgf/mm2程度の強度が得られる。この亜鉛系の合金は日本の発明でESD(超々ジュラルミンextra super duralumin)と呼ばれ,〈ゼロ戦〉の骨組みに使われた。強度は高かったが,加工性は悪い。…
※「ESD」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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