化学辞典 第2版 「HSAB原理」の解説
HSAB原理
エッチエスエービーゲンリ
HSAB principle
硬軟酸塩基の原理ともいう.HSABはhard and soft acids and basesの略称.酸と塩基の反応の強弱を,ハード酸はハード塩基と,ソフト酸はソフト塩基と強い結合をつくるという原理(Pearsonの法則)により説明した.これをHSAB原理という.ルイス酸(表1)を分類し,正電荷が高い小さなイオン,また,ルイス酸としての電子対受容原子が,原子価殻に孤立電子対をもっていないようなイオンや分子をハード酸,その反対の性質を示すものをソフト酸とする.表1にみられるようなソフト酸では,2+以下の電荷をもつ遷移金属イオンが多い.これらは,P,As,S,Iなどのルイスソフト塩基とπ電子結合により,さらに酸・塩基反応が強化される.ハード酸,ハード塩基の反応は,イオン結合を主とし,クーロン相互作用にもとづく.これに対し,ソフト酸,ソフト塩基反応は共有結合を主とし,電子軌道の重なりの程度に依存する.ルイス塩基のハード・ソフト性の分類を表2に示す.表2では,ルイス酸として H+ をハード酸,CH3Hg+をソフト酸の代表として選び,これら基準ルイス酸との結合の大小によりその強度を分類したものである.HSAB原理は錯体化学における錯体の安定性,反応性の理解,金属触媒の反応機構,生体反応の金属酵素の役割,化学分析の原理などの理解に広く用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報