化学反応あるいは化学的方法を用いて化学種の鑑定、確認、検出、組成、存在比などを決定するための諸操作または方法をいう。物理分析に対する語。
[高田健夫]
成分の種類を求める定性分析と、成分の量を求める定量分析とに大別される。そのほか、対象物質による分類では、無機物質を対象とする無機分析と、有機物質を対象とする有機分析とに区別される。また、取り扱う試料の量によって、常量分析(マクロ分析)、半微量分析(セミミクロ分析)、微量分析(ミクロ分析)、超微量分析(ウルトラミクロ分析)に分けられる。このうち超微量分析は、微量分析以下の超微量を扱い、超微量とかガンマ法とかよばれることもある。分析用の機械、器具類はすべて特別製のものを使用し、特殊技術となるので、分析技術的にも非常にむずかしい。いずれにしろ、これらの分類は便宜的に区別したものである。
[高田健夫]
錬金術から医術化学の時代に、すでにその一端がうかがえるが、学問的に体系づけたのは、燃焼理論のイギリスのプリーストリーや、定量的な研究態度で近代化学を確立し、化学の父と称せられるフランスのラボアジエであるといえる。ラボアジエが質量保存の法則を確立し、また1789年に新しい元素観を発表したのは、正確な化学天秤(てんびん)を発明し精密な実験を行ったことによっている。ついで、19世紀初期に倍数比例の法則を発見したイギリスのドルトン、気体の溶解度に関する法則を提唱したヘンリーによるガス分析の開発、フランスのゲイ・リュサックによる容量分析の基礎の確立がある。現在われわれが用いている化学分析法のなかには、すでにこのころ確立されたものが多い。その後、機器やエレクトロニクスの発展に伴い、これらを利用した分析機器が普及し、いわゆる機器分析あるいは物理分析の時代に移り変わってきた。物理分析は化学分析に比べて迅速性その他で多くの長所をもっている。しかし古典的な化学分析で代表される重量分析や容量分析には、高価な機器を用いずに正確でかつ高精度の測定ができるなどの長所があり、現在でもその価値はいささかも失われていない。
[高田健夫]
未知物質を構成する成分を知る分析法の総称。その操作を定性、検出、確認あるいは同定などという。定量分析に先だって行われる。確認には、ある物質中の特定成分の存在をそれに固有の変化や特性によって確かめ検出する場合と、得られた純物質の性質が既知の純物質のそれと同じであるかどうかを確かめる場合とがあるが、検出を目的とする前者の場合がほとんどである。
[高田健夫]
物質中に存在する特定化学種に固有の変化や特性を利用するもので、もっとも素朴な確認方法としては、人間の感覚を利用するものである。視覚、聴覚、味覚、触覚などによる確認はその典型的なもので、試料の形状、結晶形、色、光沢、透明度、硬さ、均一か否か、味、臭(にお)いなどがその対象となる。肉眼による観察の不足は、虫眼鏡、顕微鏡などで補う。顕微鏡下で物理的性質を観察したり、化学反応を行わせて調べる方法は鏡検分析とよばれる定性分析法の一つである。さらにこれらの観察に基づいて加熱、冷却、溶解などの手段を加えて試料中の成分に固有の変化、たとえば色、臭気、気化、凝固、溶解、発煙などを観察することになる。このうち加熱によっておこる変化を観察する方法は、試料中に含まれている化学成分を推定する予備試験として化学分析においては重要であり、古くから行われているいくつかの有力な方法がある。無機物質を対象としたものとしては、開管試験、閉管試験、吹管(すいかん)分析、溶球(ようきゅう)試験、炎色反応などがあり、これらは乾式法として区別されている。しかしいずれにしろ人間の直感だけに頼るのでは不十分であり、種々の試薬や簡単な機器を仲立ちとしてこの不足を補うのが普通である。試料の溶解性を観察するのも重要な予備試験である。普通、水、塩酸、硝酸、王水に対する溶解性を順次観察する。そのほか、硫酸、過塩素酸、フッ化水素酸、発煙硝酸、水酸化ナトリウムのような酸やアルカリ、またこれらの混酸、酸化剤や還元剤を加えた酸もよく用いられる。水や酸に溶解しない試料は融解によって分解がおこるかどうかをみる。多くの融解法が提案されているが、大別すると、塩基性融解、酸性融解、酸化性融解、そのほかの融解などになる。融解の方法によって、分解される物質も異なる場合が多いので、試料成分鑑定の一助となり、また分解後、溶液とした試料は、次に述べる溶液内の諸反応を利用する定性分析が行える。
試薬を用いてその成分に特有な化学反応を観察、あるいは分離して確認を行う方法が乾式法に対する湿式法であり、これにより確認を行う場合がきわめて多い。確認に用いられる化学反応としては、次の三つの条件が必要である。
(1)反応の結果が視覚によってはっきり認められること、たとえば呈色、退色、変色などの色変化、固相の生成溶解、気相の生成吸収、その他があげられる。
(2)反応が特異ないし選択的であること、すなわち、類似反応をするものがないか、または少ないこと。
(3)反応が鋭敏であること、これにより微量成分の確認が可能になる。
しかしながら未知試料に多成分が含まれているような場合に、この三つの条件を完全に満足するような試薬はなかなか得にくい。したがって普通は、できる限り各成分に分離して妨害成分を除いて行うか、種々の試薬との反応から得られた結果を総合して判断することになる。さらに最終的にもっとも確実で見誤ることのない反応を選んで最終の判断を下すことを確証、そのために用いられる試験を確証試験または確証反応という。
[高田健夫]
分離や確証を行うためのいくつかの優れた系統的分析法が知られている。このうち、陽イオン分析の例をあげると次の4種になる。
(1)硫化水素を利用して分属する方法。
(2)硫化水素の代用品を利用して分属する方法。
(3)硫化水素またはその代用品以外の無機および有機試薬を利用して分属する方法。
(4)その他の方法。
ここで分属とは、未知物質をいくつかの群に分けて分析操作を簡単にすることをいう。
(1)と(2)は原理的には同じで、普通金属とよばれる22種の陽イオンとアンモニウムイオンを含む試料を対象とした古典的な方法であるが、イオン反応を理解するうえではかっこうな方法でもあるので、教育的価値が大きく、しばしば分析化学における実習に用いられている。(3)は有機化合物との反応や抽出法を使って分離し、各イオンの確証には主として(4)で使われている斑点(はんてん)分析法(点滴分析法)が用いられている。(4)は斑点分析法やリングオーブン法が代表的なものである。斑点分析は、適当に調製あるいは分属された試料と試薬溶液の各1滴を斑点紙、濾紙(ろし)あるいは磁製の板にくぼみをつけた点滴板上に落として反応させ、このとき生じた呈色を観察して確認する方法で、特殊な器具が不要である。ことに簡便で迅速性があるので、予備試験や野外での分析などに多く用いられている。多数の有機試薬が開発されたので応用範囲も非常に広がってはいるが、化学的性質の似たイオンが共存するような場合にはそれぞれを確認するのがむずかしい。この点を克服し、濾紙上で沈殿、洗浄、溶解、濾過などの操作を行って数種の成分を分離し、確認する方法として考案されたのがリングオーブン法である。陰イオンの定性分析は一般に陽イオンの分析後に行われるが、陽イオンのそれと異なり、特性反応による分属が不完全であり、また同属に分離した各イオンの相互分離がむずかしい。したがって相互に妨害をおこす場合が多いので、いくつかの反応を調べて初めてその存在を確認できる場合が多い。一般には塩化バリウムまたは硝酸銀によって大別したのち、いくつかの反応によって確認を行っている。
[高田健夫]
無機化合物の分析のような系統分析ができないので、酸、塩基、有機溶媒などによる溶解度試験を行ったり、適当な方法で単離してそのおのおのについて精製後、元素分析や官能基の分析を行ったりして確認する。
[高田健夫]
物質の成分の量的関係を求める分析法の総称。その操作を定量という。物質の量を正確に測定するのはかなりむずかしいことであり、後述する化学的方法以外にも、物理的、あるいは場合によっては生物学的方法など、あらゆる手段がこのために利用されている。しかし、以上の枠に入らないものも少なくなく、他の分析法と併用して使われる方法も多い。とくに化学的定量法は他の物理的方法と併用して行われることが多い。
[高田健夫]
物質の化学量論に基礎を置き、質量の測定に基づくものと、体積の測定に基づくものとがその二大法であり、それぞれ重量分析法、容量分析法とよばれている。両法ともその歴史が古く、古典分析法といわれ、今日では簡便・迅速な機器を用いるいわゆる機器分析法を用いる分析法のほうが好んで用いられる傾向にある。しかし機器分析法が万能ではなく、測定にかける前に前処理として化学的分離の操作を必要とすることが多いこと、化学量論に基礎を置く方法は、あらゆる分析操作の基礎となる内容を含んでいること、また他の方法にないいくつかの利点があることなどから、現在でもその価値はすこしも減じてはいない。
重量分析法は、試料を溶解し、目的成分を適当な方法で分離し、純粋な化合物や単体として分離したのち、その質量を測定する方法である。場合によっては、目的成分を揮発させ、それによって生ずる質量の減少を測定する方法(間接法)もある。しかし分離法としては沈殿法がもっともよく利用される。この方法は、溶液にした試料に適当な沈殿剤を加えて、難溶性の化合物として定量的に沈殿分離し、乾燥後これをそのままか、あるいは加熱して組成のはっきりした化学形に変えて、天秤によって質量を求め、計算によって含有量を求める方法である。この方法の最終段階で沈殿がもつべきある定まった化学組成のことを秤量(ひょうりょう)形という。この方法の成否は、目的成分のみと化学量論的に反応し、しかも溶けにくい沈殿ができるような沈殿剤を選択することや、沈殿生成の際の溶液の組成や温度などいくつかの注意を要する点がある。また加熱操作にも熟練を要する。しかしその精度や正確さ(たとえば体積とか長さの測定に比較してはるかに高い精度で測定できる)、標準試料が不要である(他の定量法は最終段階で標準試料の含量と比較して求める)など、他の方法では得られないいくつかの優れた特徴をもっている。
容量分析法は、その名称が示すように定量しようとする物質の体積またはそれと当量のほかの物質の体積を測定することによって求めようとする分析法の総称であり、溶液の反応体積を測定する場合を普通、容量分析法または滴定法とよび、気体の体積を測定する場合をガス容量分析法とよんでいる。滴定分析法は、濃度を正確に定めた標準溶液を、ビーカーにとった一定体積の試料溶液中にビュレットを用いて1滴ずつ滴下し、標準溶液中の成分試薬と試料溶液中の目的成分とをすこしずつ反応させ、反応の進行によって目的成分の濃度が事実上ゼロとなるとき(終点)までに要した滴下量から、それに対応する目的成分の量を求める方法である。終点はなんらかの手段によって知らなければならないが、一般には反応の終点の前後で明瞭(めいりょう)な色調の変化を示す指示薬が使われ、また電気化学的方法や光学的方法もしばしば用いられている。しかしこのような方法で実験的に求めた終点は、かならずしも反応の理論的終了点である当量点と一致しないこともあるので、両者ができるだけ一致するような指示方法を採用することがだいじである。そのほか、当然のことながら、反応が定量的に進行し、逆反応や別の副反応がおこらないことや、反応の速度も遅いものでは困るなど、この方法が可能になるためのいくつかの条件がある。滴定法の内容はきわめて多種にわたっており、応用範囲も広いが、反応の形式によって次のように分類される。
(1)中和滴定または酸塩基滴定 たとえば塩酸HClと水酸化ナトリウムNaOHの中和反応によって、どちらかの濃度を求めることができる。
HCl+NaOH=NaCl+H2O
(2)酸化還元滴定 たとえば硫酸鉄(Ⅱ)FeSO4と硫酸セリウム(Ⅳ)Ce(SO4)2との酸化還元反応で、この反応を簡単に書くと
Fe2++Ce4+=Fe3++Ce3+
のように表すことができ、Fe2+がCe4+によって酸化、あるいは逆にCe4+はFe2+によって還元される定量的反応を利用したものである。
(3)沈殿滴定 たとえば硝酸銀AgNO3と塩化ナトリウムNaClとの沈殿反応
AgNO3+NaCl=AgCl+NaNO3
によってどちらかの濃度が求められる。
(4)錯滴定あるいはキレート滴定 たとえば溶液中で錯化合物をつくる試薬をY4-で表し、これと反応する金属イオンとして銅Cu2+を例にとると、
Cu2++Y4-=CuY2-
の錯生成反応によって金属イオンの濃度を求めることができる。
適定法は、操作が簡単、容易で迅速性があり、とくに複雑な器具や高価な機器を使用しないで行える利点がある。しかし正確な体積を測るためには、正しい体積をもった測容器が必要であり、メスフラスコ、ビュレット、ピペットなどが使われる。
これに対し、気体の体積を測定するガス容量分析法は、固体または液体の試料に適当な試薬を加え、化学反応によって生成する気体の体積を測定して試料中の特定成分を定量する方法である。この際の反応も化学量論的であることが望ましいが、そうでない反応でも、適当な補正を行うことによって利用できる。ガス容量分析法の代表的なものにルンゲ窒素計(ナイトロメーターともいう)がある。この方法は、目盛り管の中で、定量すべき硝酸塩に硫酸および水銀を作用させ、次のような反応で発生する酸化窒素NOの体積を測定して定量するものである。
2KNO3+6Hg+4H2SO4
=3Hg2SO4+K2SO4+4H2O+2NO
この方法は亜硝酸塩、ニトロセルロース、ニトログリセリン中の窒素の定量などにも用いられる。ガス容量分析法はこのほか、炭酸塩中の二酸化炭素、過酸化水素中の有効酸素定量などによく利用されている。
[高田健夫]
『槌田竜太郎・原沢四郎著『分析化学実験法1 第1編定性分析』(1953・共立出版)』▽『G・J・シュガー、J・A・ディーン著、二瓶好正・飯田芳男監訳『化学計測ハンドブック――前処理操作から最新機器まで』(1991・マグロウヒル出版)』▽『氏平祐輔著『化学分析』(1993・昭晃堂)』▽『佐竹正忠・御堂義之・永広徹著『分析化学の基礎』(1994・共立出版)』▽『今泉洋・上田一正他著『基礎分析化学』(1998・化学同人)』▽『綿抜邦彦著『分析化学』新訂版(1999・サイエンス社)』
物質を構成する化学種chemical speciesの種類とその量を明らかにすること。化学種とは元素,イオン,化合物,あるいは核種などを包括的に意味し,単に成分元素のみを意味するものではない。元素分析は,物質を構成する元素の種類とその含有量を定めるものである。化学分析とは,〈何が〉〈どれだけ〉〈どのような状態で〉含まれているかを明らかにすることである。もともと,〈何が含まれているか〉を明らかにするのは定性分析qualitative analysisであり,〈どれだけ含まれているか〉を明らかにするのは定量分析quantitativeanalysisである。〈どのような状態で含まれているか〉を明らかにするのは状態分析state analysisと呼ばれている。たとえば,天然水中に存在する水銀の量を求める場合,区別なしに全量を測定すれば得られた結果は総水銀量となる。メチル水銀のような有機態水銀と,それ以外の無機態水銀とを区別して測定すれば,状態分析となる。岩石中の鉄(Ⅱ)と鉄(Ⅲ)を酸化状態を区別して定量すれば,鉄の存在状態を明らかにしたことになる。
化学分析を行う場合,化学的方法のみを用いるとは限らない。物理的方法を用いても化学種を明らかにする場合は化学分析と呼ばれている。X線回折法を用いて炭酸カルシウムCaCO3を分析すれば,その炭酸カルシウムが方解石であるかアラレ石であるかなどの結晶形を明らかにすることができる。これは炭酸カルシウムという化学種の結晶状態を解析したことになる。
化学分析に用いられる手法は非常に多いが,現在用いられているおもな方法を次にあげる。物質を分離する方法としては,沸点の差を利用する蒸留,親和力の差を利用する溶媒抽出,イオン交換,クロマトグラフィーなどのほか,溶解度の差を利用する沈殿分離,酸化還元電位の差を利用する電気的方法などがある。物質を定量する方法としては,質量測定による重量分析,体積の測定を利用する容量分析などのほか,物質の出す光や物質が吸収する光を利用する光分析,電気的性質,電圧・電流の測定による電気分析などがある。さらに種々の装置を用いる熱分析,X線分析,質量分析,核磁気共鳴(NMR),電子スピン共鳴(ESR),放射能分析(放射化学分析,放射化分析)などがある。上述のように化学分析には化学的方法に加えて物理的な原理を応用する機器分析が多く利用されているが,バイオアッセーと呼ばれる生物的方法を用いる化学分析もさかんになってきた。化学分析に対して分析化学があるが,これは化学分析を行うための基礎的理論を研究する学問である。分析化学は測定という自然科学の基本的手段の理論づけを行うので,すべての学問の基礎ということができる。しかし利用する原理方法はきわめて多岐にわたるので,あらゆる分野の内容を理解しなければならない。その意味で分析化学は応用科学ともいうことができる。
→分光分析 →分析化学 →ボルタンメトリー
執筆者:綿抜 邦彦
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試料の化学組成を知るために行われる分析で,その目的によって定性分析と定量分析に大別される.物質中の元素の組合せにより,その化学操作は異なってくる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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