DNA依存性RNAポリメラーゼの略記。転写酵素transcriptaseとも呼ばれる。DNAの塩基配列を鋳型にして,リボヌクレオシド三リン酸を重合させ,RNAを合成する働きをする酵素。基質となるリボヌクレオシド三リン酸は,アデノシン三リン酸(ATPと略す),ウリジン三リン酸(UTP),グアノシン三リン酸(GTP),シトシン三リン酸(CTP)の4種類で,それぞれ塩基部分が異なる。重合はヌクレオチド間のホスホジエステル結合の形成にあり,その際にピロリン酸(二リン酸ともいい,PPiと略記)が放出される。鋳型DNAのA(アデニン),T(チミン),G(グアニン),C(シトシン)の4塩基に対して,それぞれに相補的なU(ウラシル),A,C,Gの塩基をもつリボヌクレオシド三リン酸が対合し,酵素の働きで重合していく。結果として,鋳型DNAに対し相補的な塩基配列をもつRNAが合成される(遺伝情報の転写)。反応過程は,まずDNA上のRNA合成開始を指令する塩基配列部位(プロモーター)に酵素が結合し,DNAの二重らせん構造を局所的にほどいて,DNAの一方の鎖を鋳型にRNAが合成される。RNA鎖の伸長の方向は5′末端側から3′末端側へ向けて起こる(この方向性については〈核酸〉の項目を参照)。
原核生物では細胞内に存在するRNAポリメラーゼは1種類である(少なくとも基本型は1種類で,多少変化した型が混在することは考えられる)。一方,真核生物については,合成するRNAの種類別に異なった酵素が存在する。すなわちリボソームRNAはポリメラーゼⅠ型で,メッセンジャーRNAはⅡ型で,転移RNAと5S-RNAはⅢ型で合成される。一般にRNAポリメラーゼは大型の酵素で,サブユニット構造をとるのが通例である。大腸菌の場合には,分子量が約50万程度で,5個のサブユニット(α2ββ′σ)よりなる。ウイルスによっては独自のRNAポリメラーゼをもつものもあるが,この場合にはサブユニット構造をとらない例もある。
→核酸
執筆者:池村 淑道
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
転写酵素ともいう.鋳型DNA,あるいはRNAの塩基配列と相補性を保ちながら,基質であるリボヌクレオシド三リン酸を一リン酸の形で結合させ,RNAを合成する酵素.一般に,DNA依存RNAポリメラーゼをさすが,広義には,RNAウイルスにみられるRNA依存RNAポリメラーゼ(RNAレプリカーゼ)を含む.RNAポリメラーゼにはⅠ,Ⅱ,Ⅲが存在し,それぞれrRNA,タンパク質,tRNAをコードする遺伝子の転写を行っている.[CAS 9014-24-8]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…【丹羽 修身】
[遺伝情報の転写]
DNA上に塩基配列として書き込まれている遺伝情報を,RNA分子として読み出す過程を転写transcriptionという。DNAを鋳型にRNAポリメラーゼの働きで,リボヌクレオシド三リン酸を基質にRNAが合成される。RNAポリメラーゼが,DNA上の転写開始を指令する部位(プロモーターpromoter)にまず結合し,DNAの二重鎖を局所的に解離させ,そのうちの1本の鎖を鋳型に相補的なRNAを合成する。…
※「RNAポリメラーゼ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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