日本大百科全書(ニッポニカ) 「プライマー」の意味・わかりやすい解説
プライマー
ぷらいまー
primer
十数ヌクレオチドの短いDNAまたはRNA(まれにタンパク質のこともある)で、DNA合成の開始に必須な成分。1956年にA・コーンバーグが発見したDNAポリメラーゼをはじめとするすべてのDNAポリメラーゼは、鋳型となるDNAと塩基対をつくった短いオリゴヌクレオチド(プライマー)を必須とする。このオリゴヌクレオチドの3'OH末端に対し、5'XTP(Xは、A、G、C、Tのいずれか)を基質としてピロリン酸を遊離し、フォスフォジエステル結合をつくることで、DNA合成の反応が開始される。このプライマーが存在しないとDNA合成は開始されないのである。1975年(昭和50)に岡崎令治(おかざきれいじ)(1930―1975)はプライマーが十数ヌクレオチドのRNAであることを発見した。生体内で合成されたすべてのDNAの5'末端には短いRNAがついていることになる。プライマーRNAはDNA合成が完了する前にRNA-DNA2重鎖のRNAを特異的に分解するリボヌクレアーゼRNase Hにより除去される。一部のバクテリオファージやウイルスでは、鋳型DNAに結合しているタンパク質のチロシンのOH基がプライマーとして機能することも知られている。真核生物の染色体の5'末端、テロメア(染色体の両末端にある遺伝子配列)ではプライマーを使って相補的なDNAを合成することができない。そのためテロメレース(テロメア複製酵素)とよばれるDNAの5'末端の配列に相補性をもつRNAを内在した特別な酵素の助けが必要である。
[菊池韶彦]
『J・D・ワトソン他著、中村桂子他訳『遺伝子の分子生物学』第5版(2006・東京電機大学出版局)』▽『B・ルーウィン著、菊池韶彦他訳『エッセンシャル遺伝子』(2007・東京化学同人)』▽『L・ハートウェル他著、菊池韶彦監訳『ハートウェル遺伝学』第3版(2010・MEDSI)』