改訂新版 世界大百科事典 「ABS洗剤」の意味・わかりやすい解説
ABS洗剤 (エービーエスせんざい)
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムsodium alkylbenzene sulfonate(略称ABS)を主成分とする合成洗剤。代表的なアニオン型界面活性剤。図に示す化学構造をもつ化合物の総称であり,ベンゼン核に結合するアルキル基Rが直鎖状のものと分枝状のものがある。界面活性剤としては炭素数8~12程度のものが多用される。1960年代,日本の石油化学工業の勃興期の代表的石油化学製品として,プロピレンをリン酸等の酸触媒で低重合させて得られるドデセンCH2=CH(CH2)9CH3とベンゼンからドデシルベンゼンを合成し,これをスルホン化して,ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが大量に生産された。原料が入手しやすいこと,界面活性能が著しく優れていたことから,当時広く用いられた。しかし,これは側鎖アルキル基が分枝構造のため,廃水中で微生物により生分解されずに残留し(ハードABS洗剤),かえって土壌菌を殺したり,河川面の発泡,下水処理困難など洗剤公害の原因となった。そのため,生分解性の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム,または他の生分解性界面活性剤がソフトABS洗剤として家庭用に広く用いられるようになった。これは直鎖構造をもつことからLAS(linear alkylbenzene sulfonateの略)洗剤ともいう。分枝型のものは工業用など特定の目的に供される。
執筆者:内田 安三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報