カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを比較的多量に含む天然の水を硬水といい、これに対し比較的少量しか含んでいないものを軟水という。
[中原勝儼]
硬水のうち、含まれている陰イオンが主として炭酸水素イオンであるような場合は、煮沸することによって陽イオンを炭酸塩として沈殿させることができ、したがって軟水とすることができるので、一時硬水という。陰イオンが炭酸水素イオン以外、すなわち塩化物イオン、硫酸イオンなどである場合には、煮沸しても軟水にはならないので永久硬水という。ただし永久硬水であってもイオン交換によって、あるいはエチレンジアミン四酢酸などのキレート剤でキレートをつくることによって軟水とすることができる。硬水はせっけんで沈殿を生じ、その働きを妨げるし、ボイラーなどでは加熱によって缶石を生じるなどするため、生活用水や工業用水として適当ではない。
[中原勝儼]
水の硬さの程度を硬度といい、カルシウムおよびマグネシウムの含有量によって表す。すなわち、水中に存在するカルシウムとマグネシウムの総量を、それに相当する炭酸カルシウムの量に換算したときの1000ミリリットル中のミリグラム数を硬度とする。これをアメリカ硬度(単位ppm)といい、日本ではこれが広く使われている。また水100ミリリットル中に酸化カルシウムとして1ミリグラムを含むときドイツ硬度1度(単位dH)とし、マグネシウムは1.4MgO=1.0CaOによって酸化カルシウムに換算する。通常20度以上のものを硬水、10度以下のものを軟水、その中間を中間の水という。炭酸水素イオンの濃度に対応する硬度を一次硬度あるいは炭酸塩硬度、その他の強酸の塩基に対応する硬度を永久硬度あるいは非炭酸塩硬度という。
[中原勝儼]
カルシウムおよびマグネシウムを多く含む水。地下水,河川水はみな多少のカルシウムおよびマグネシウムを炭酸水素塩,硫酸塩などとして含むが,その量(水の硬度)が多いと,工業用水,生活用水として不適当な硬水となる。硬水はボイラーの内側に湯あか(スケール)を生じて熱伝導をさまたげ,水管をつまらせて爆発の原因をつくる。またセッケンを溶かせば水に不溶のカルシウムセッケンやマグネシウムセッケンを生じてその効果を減じ,またそれらの沈殿が繊維に付着して除きにくいので,製糸,染色などの妨害になる。硬水の硬度を下げ,実用上支障のない水(軟水)にするには種々の方法があるが,現在盛んに行われているのは,イオン交換樹脂や合成ゼオライトなどのイオン交換体に,上述のような害のないナトリウムイオンなどを吸着させておき,その層に硬水を通して,水中のイオンを無害のイオンに置きかえるイオン交換法である。なお,炭酸水素塩として含まれている硬水は煮沸すると炭酸塩となって沈殿するので,これを除いて軟水化できることから一時硬水といい,硫酸塩の場合には煮沸で除くことができないので永久硬水という。
日本の普通の河川水,水道水の硬度は2~3度程度であるが,地域によっては20度を超すものがあり,工業上は,硬度20度以上の水を硬水,10~20度のものを通常硬水,10度以下のものを軟水として区別する。水の硬度を測定し,硬水と軟水を判別するには,エチレンジアミン四酢酸(EDTA)によるキレート滴定法がよく用いられる。
→硬度
執筆者:曽根 興三
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マグネシウム塩類,カルシウム塩類をかなり含み,普通のせっけん(高級脂肪酸のアルカリ金属塩)の洗浄に適しない天然水をいい,それらを含まないものを軟水という.炭酸水素塩として存在する場合は,煮沸により分解して炭酸塩を沈殿させ軟水とすることができるので一時硬水といわれる.硫酸塩などが含まれる場合は,永久硬水とよばれ,その軟化にはイオン交換,キレート化などが行われる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…ドイツ,イギリス,フランスなどでは,おのおの独自の硬度の基準がある。そのうちドイツ硬度というのはCaO1mg/水100mlを1度とするもので,ドイツ硬度10度以下(CaCO3179mg/l以下)を軟水,同20度以上(CaCO3357mg/l以上)を硬水と呼ぶことが多い。ただし,これらは厳密な定義ではない。…
※「硬水」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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