Budd-Chiari症候群

内科学 第10版 の解説

Budd-Chiari症候群(肝静脈閉塞症)

(1)Budd-Chiari症候群
 原因を問わず肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞狭窄により門脈圧亢進症を呈する病態を臨床的にBudd-Chiari症候群と総称する.原因不明の一次性Budd-Chiari症候群の病因には血管形成異常,血液凝固異常,骨髄増殖性疾患などの関与が示唆されている.原因の明らかな二次性Budd-Chiari症候群の病因には肝腫瘍などがあげられる.
病態
 Budd-Chiari症候群の本態肝臓からの静脈血流出障害である.肝静脈うっ血に伴い肝うっ血,肝細胞壊死,肝線維化から肝硬変に至る.
病理
 肝臓は肉眼的にうっ血性肝腫大,慢性うっ血に伴う肝線維化,肝実質の脱落・再生,うっ血性肝硬変の像などを呈する.高度うっ血領域は萎縮するが,うっ血が軽度な部位は代償性腫大を呈する.尾状葉の腫大を認める場合も多い. 組織学的には急性うっ血例では肝小葉中心帯の類洞の拡張がみられ,うっ血が高度の場合には中心帯に壊死を認める.うっ血が持続すると肝小葉の逆転像(門脈域が中央に位置し肝細胞集団がうっ血帯で囲まれた像)の形成や中心帯領域に線維化が生じ,慢性うっ血性変化がみられる.線維化が進行するとおもに中心帯を連結する架橋性線維化がみられ線維性隔壁を形成し肝硬変の所見を呈する.
臨床症状
 発熱,腹痛腹水などを主症状とする急激発症例と慢性経過例がある.急性型は一般に予後不良で1〜4週で肝不全により死に至るがわが国ではきわめてまれである.慢性経過例では無症状で発症し,うっ血肝からうっ血性肝線維症を経て肝硬変に至るにつれ食道・胃静脈瘤,上・下腸間膜静脈領域や十二指腸直腸などの異所性静脈瘤,門脈圧亢進症性胃症,腹水,脾腫,貧血などの門脈圧亢進症状や,下大静脈閉塞例では下肢静脈瘤,下腿浮腫,色素沈着,胸腹壁の皮下静脈怒張などがみられる.
検査成績
血液生化学検査では脾機能亢進に伴う1つ以上の血球成分の減少を示す.重症例では高度の肝機能障害を呈する. 内視鏡検査では上部消化管の静脈瘤,門脈亢進症性胃症や異所性静脈瘤を認める.
 超音波,CT,MRIなどで肝静脈主幹や肝部下大静脈の閉塞や狭窄を認める(図9-16-1).肝臓のうっ血性腫大,尾状葉の腫大や脾腫を認める.超音波ドプラ検査では肝静脈主幹や肝部下大静脈の逆流や乱流,肝静脈血流波形の平坦化や欠如を認める. 下大静脈造影や肝静脈造影で肝静脈主幹や肝部下大静脈の閉塞や狭窄を認め,肝静脈枝相互間吻合や上行腰静脈や奇静脈などの側副血行路の拡張も観察される.肝部下大静脈圧や肝静脈圧,閉塞肝静脈圧の上昇を認める.
診断
 画像検査所見を参考に確定診断を得る.鑑別診断は肝硬変や特発性門脈圧亢進症,肝外門脈閉塞症,日本住血吸虫症などであるが下大静脈造影や肝静脈造影などで閉塞部位が確認できれば診断は比較的容易である.
合併症
 重要な合併症として肝細胞癌が知られている.また,肝内血行動態の異常に伴い結節性再生過形成(nodular regenerative hyperplasia:NRH)や限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia:FNH)に類似する良性の過形成結節が認められることもある.
治療
閉塞あるいは狭窄を呈する血管に対するカテーテルによる開通術や拡張術,ステント留置術が行われる.外科的に閉塞や狭窄を解除する場合もある. 脾機能亢進症に対しては部分的脾動脈塞栓術や脾摘術が,消化管の静脈瘤に対しては内視鏡的食道静脈瘤硬化療法や内視鏡的食道静脈瘤結紮術,バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:BRTO)などが行われる.肝不全例には肝移植も考慮される.[松井 修・小林 聡]
■文献
門脈血行異常症の診断と治療のガイドライン 厚生労働省特定疾患門脈血行異常症調査研究班平成18年度研究報告書,2007.
Bayraktar UD, et al: Hepatic venous outflow obstruction: Three similar syndromes. World J Gastroenterol, 13: 1912, 2007.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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