疾病や事故などによって,身体に障害をもつこと。
障害の概念には三つのレベルがある。すなわち,機能障害(恒久的損傷)impairment,能力障害disability,およびハンディキャップ(社会的不利)handicapの三つである。疾病や外傷などが生じたとき,身体に損傷を受けるが,この病理学的変化は自然に,あるいは治療医学の助けをかりて完全に回復するのが普通である。しかし場合によっては,この損傷が残ってしまうことがある。すなわち身体の一部に解剖学的,生理学的な欠損,変形,麻痺などが恒久的に残る場合がある。これが機能障害であり,先天的にもしばしば生ずるものである。次にこうした身体損傷により種々の動作が制限を受けるようになる。食事動作や更衣動作の障害,歩行不能などの能力が障害される。これが能力障害である。能力障害の内容は目的動作を社会的に拡大して考えると見方が変わってくる。すなわち,年齢,性,社会的・文化的生活としてふさわしい,あるべきものを考えた場合,どの程度の不利があるかを基準とする見方である。この見方からすれば,能力障害を有する個人が社会に置かれた立場でどのように不利であるかが問題で,これをハンディキャップとして考える必要がある。〈障害〉の内容をこのように分類するのは,広くリハビリテーションの立場から,医学,教育,福祉の参加が必要であることを指摘する観点を無視できないからである。
日本の身体障害者は1970年代に比べ2倍近くにも増加し,1991年現在約272万人と推定されている。そのほかに身体障害児の約8万1000人が加わる。身体障害の内訳は,視覚障害35万3000人,聴覚障害35万8000人,肢体不自由155万3000人,内部障害(腎機能障害など)45万8000人であり,全体の57%を肢体不自由が占めている。また年齢階層別では,高年齢に出現率が高い。そして日常生活に介護を要するものが上記障害者の約1/3に当たっており,ほとんどは家族などの介護を受けている。身体障害者で就業している者は,1970年の労働力調査によれば,全体の44%に当たり,製造業,農業・漁業がその半数以上を占めている(1985年の調査では24万7000人が就労)。身体障害者も身体障害児も全体に重度化の傾向を示しており,そのケアがますます重要となってきた。
障害者福祉の目的は,まず障害者のハンディキャップを補い,日常生活能力や職業能力を回復させて,速やかに社会経済活動に復帰させようとすることにあるが,日本の身体障害者福祉に関する制度としての対策は,一部の特殊な援護を除き,1949年に〈身体障害者福祉法〉が制定されるまでみるべきものがなかった。その後,ようやく障害者に対して各種の相談に応じ,障害の判定評価,更生医療,義肢その他の補装具の支給,居宅の重度身体障害者に家庭奉仕員を派遣することによる日常生活上の世話,あるいは身体障害者施設の設置などが行われてきた。一方,障害者の労働保障については,60年に〈身体障害者雇用促進法〉が制定されて,障害者雇用率を決めてこれらの達成に努力が払われたが,76年に改正が行われて障害者の雇用が事業主の法的義務となった(87年には精神薄弱者を含めるよう改正され,名称も障害者雇用促進法と改称。のち92年にも改正され,障害者の労働保障はさらに改善された)。これらは日本の社会構造,人口構造の変化,さらに経済の高度成長から低成長時代への転換を経験するなど,障害者の置かれる環境が厳しいものになっていることも関連しているが,障害者をめぐるコミュニティ・ケア,障害者に対するライフサイクル的視点からの対応,重度障害者の顕在化など,再検討されるべき課題が少なくない。
障害者の心理的・社会的背景をとり上げて考えることも今後ますます必要なことと思われる。すなわち障害者個人の特質によって,本人がどのように障害を受けとめ反応するか,ということである。そこまで考慮することは現状ではむしろ不可能なことであろうが,しかし考えられる分類項目としては,障害者が本来もっている身体に関する意味づけ,能力と対人関係における位置づけ,信念,態度,健康観,障害に対する観念,職業観,リハビリテーションの経過などをあげることができるであろう。
障害者にとっては,障害による直接の影響と環境からの影響が,障害に対する自身の態度を形づくる基礎になっている。
→リハビリテーション
執筆者:岩倉 博光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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