iPS細胞の臨床応用(読み)あいぴーえすさいぼうのりんしょうおうよう

知恵蔵 「iPS細胞の臨床応用」の解説

iPS細胞の臨床応用

iPS細胞疾病治療に用いること。現在、疾病やけが損傷した細胞をiPS細胞から分化誘導し、それを損傷部位に移植する再生医療分野での研究が世界中で積極的に進められている。iPS細胞の用途としては他に、薬の開発や疾患研究が考えられる。
2014年9月には、網膜黄斑部が異常な新生血管によって障害される加齢黄斑変性の患者に対し、世界初の移植手術が理化学研究所と先端医療振興財団により実施された。患者は合併症もなく無事に退院した。
iPS細胞を臨床に用いるメリットとして、(1)皮膚などの体細胞を用いるので受精卵(胚)由来のES細胞のような倫理的問題がない、(2)患者本人から採取した細胞で作製すれば拒絶反応が起こるリスクが低いと予測できる、といったことがある。一方で、理論上iPS細胞から精子卵子といった生殖細胞も分化誘導できてしまうという倫理的課題や、iPS細胞を分化誘導して作製した細胞ががん化するリスクを持つという技術的課題がある。また、マウスの実験で、自己細胞を用いても拒絶反応が現れるケースも報告されている。
日本では、06年に世界で初めてマウスのiPS細胞作製に成功した山中伸弥教授を中心として、10年に京都大学iPS細胞研究所(CiRA)が設立され、iPS細胞関連の基礎から応用研究の中核的役割を担っている。国は再生医療の推進を国家戦略の柱の一つと位置付け、文部科学省、厚生労働省、経済産業省など関連省庁で連携した取り組みを進めてきており、13年には10年間で1100億円の研究費を予算化、薬事法改正や再生医療等安全確保法など効率よく安全な研究を進めるための環境整備にも取り組んでいる。文部科学省の作ったロードマップによれば、今後は順次脊髄(せきずい)損傷、パーキンソン病心筋梗塞(こうそく)などにも臨床応用の範囲を広げていく考えだ。ただこれらの疾病では、すでに手術の行われた加齢黄斑変性に比べて1回の手術に桁違いの細胞数を確保しなければならず、安全に効率良く培養できる仕組みが必要とされている。また、脊髄損傷など急性の疾病においては患者自身の細胞から培養すると治療に最も適した時期を逃してしまうため、あらかじめ免疫のタイプ別に移植細胞の元になるiPS細胞株を用意しておく必要があるが、京都大学医学部附属病院iPS細胞臨床開発部は、これらの細胞株を保存する「iPS細胞ストック」の構築に着手した。

(石川れい子 ライター/2014年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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