ATSC方式(読み)えーてぃーえすしーほうしき

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

国際的な標準規格として承認された地上デジタルテレビジョン放送方式の一つ。ATSCはアメリカのAdvanced Television Systems Committee(高度化テレビジョンシステム委員会)の頭文字をとったもの。この委員会が開発した地上デジタル放送規格がATSC方式で、アメリカ方式ともよばれる。シングルキャリア(一つのテレビチャンネルを単一のキャリアで送信する方式。キャリアは搬送波ともよばれ、情報をのせて運ぶ電波のこと)で、地上アナログ放送のNTSC方式を改良してデジタル版としたものに相当する。日本方式のISDB-Tのような新規のシステムではなく、使える機能は限定される。アメリカ、カナダ、メキシコ、韓国で採用されている。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

おもな仕様

〔1〕映像符号化方式 MPEG(エムペグ)-2とよばれる高能率高画質圧縮方式。

〔2〕音声符号化方式 AC-3(ドルビー・デジタルDolby Digital)とよばれる高能率高音質圧縮方式。

〔3〕フィールド数(動画の毎秒当りのこま数) フィールド数は毎秒60。フレーム数は順次走査の場合はフィールド数に同じ、飛び越し走査(インターレース)の場合は毎秒30。

〔4〕走査線数・走査方法・画面の横縦比 走査線数により4種類に分類されるが、放送事業者が画品質や効率を考慮して選択できる。

(1)走査線数525本(有効走査線数480本) 飛び越し走査または順次走査、横縦比4対3。アナログ放送のNTSC方式と同等の画質。

(2)走査線数525本(有効走査線数480本) 飛び越し走査または順次走査、横縦比16対9。

(3)走査線数750本(有効走査線数720本) 飛び越し走査または順次走査、横縦比16対9。EDTV(クリアビジョン)相当の中画質。

(4)走査線数1125本(有効走査線数1080本) 飛び越し走査または順次走査、横縦比16対9。HDTV(ハイビジョン)画質。

 アメリカでは、ABC(American Broadcasting Companies)とフォックス系のテレビ局が走査線数750本・順次走査・横縦比16対9の中画質放送を、その他の局が走査線数1125本・飛び越し走査・横縦比16対9のHDTV放送を行っている。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

ATSC方式の長所

省電力で広範囲なサービスエリアを実現している。電波の波高率(最大値と実効値の比)が低く抑えられているため、比較的少ない送信機電力で広い範囲の視聴者に電波を届けることができる。広大な地域に視聴者が分散しているアメリカの事情に適した方式である。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

ATSC方式の短所

(1)シングルキャリアでマルチパスに弱い。シングルキャリアを採用しているため、マルチパス(多重波伝搬。高層建築物などで反射された複数の電波が時間差を伴って本来の電波に重なって到達する現象)が生じる都市部で、電波間の干渉により信号処理が阻害され、正常な受信が困難になる。そのため、都市部ではケーブルテレビが主体となっている。

(2)移動端末機(モバイル端末機)用の別設備が必要で、受信が有料となる。ISDB-T方式で採用されているセグメント方式ではないので、移動端末機用放送には別の送信局と別のチャンネルを設ける必要がある。このコストを負担するため、移動端末機受信は有料となる。なお、移動端末機用チャンネルには、ATSC-M/H(ATSC-Mobile/Handheld、ATSC‐移動/携帯)という拡張規格があり、これにはマルチパスによる障害を解消する機能が付加されている。そのため、移動中の受信性能は日本のワンセグよりよいとされる。

(3)インターリーブが使えず雑音に弱い。インターリーブとは、雑音などによってデジタル信号の符号列が乱れた場合、これを元の正しい符号列に直す処理技術である。ATSC方式では、ISDB-T方式で採用されている周波数インターリーブや時間インターリーブといった機能を使うことができず、伝搬中に乱れたデジタル符号列を元どおりに修正することが不可能で雑音に弱い。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

拡張規格

拡張規格として、次の規格が検討されている。ただし2015年初めの時点で詳細は示されておらず、開示は今後になるものと考えられる。

(1)ATSC 2.0 現行のATSC 1.0と互換性をもつ大規模な改定版で、テレビをインターネットに接続し、対話型で複合的なサービスを可能とするなどの機能拡張を行う。

(2)ATSC 3.0 10年以内の実用化を想定した改定。現行ATSC 1.0との互換性は考慮せず、大幅なサービス拡大を検討するという。

[吉川昭吉郎 2015年6月17日]

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