翻訳|announcer
広義には劇場、街頭、駅頭などでマイクロホンを通じて告知する者も含むが、一般にはラジオ、テレビの放送企業に所属し、放送のための告知をする人、あるいはその職業をいう。集団作業である放送のなかで、音声表現の中心的な担い手としての役割を受け持つ。ラジオ放送の当初から、原稿を読んだり、話をする人を必要としたので、アナウンサーの歴史は放送の歴史とともに古い。日本で最初のアナウンサーは、現在のNHKの前身、社団法人東京放送局が試験送信(1925)を開始したときから活躍した京田武男(きょうだたけお)、大羽仙外(おおばせんがい)で、いずれも新聞界の出身者であった。放送の進展とともにアナウンサーの仕事も専門化し、1934年(昭和9)からは全国的規模でアナウンサーが募集され、養成されるようになった。アナウンスの仕事はラジオの時代に固まったが、テレビの登場でこれが大きく変わることになった。1953年(昭和28)のテレビ本放送開始の数年前から、テレビのためのアナウンスの実践的研究が現場で進められ、やがてカメラ・フェースを考慮した採用が行われるようになった。
放送の歴史のなかでアナウンサーの活動領域はしだいに拡大し、今日ではほとんどあらゆる番組に及び、仕事は多岐にわたっている。しかし、書かれた原稿を読み、インタビューをし、またスポーツなどの状況を実況放送として描写する、という基本は変わらない。また、多様な癖をもった言語表現をする人々が現れる番組のなかで、いわゆる標準語を正確に、聞きやすく話すという放送初期からのアナウンサーの役割も変わっていない。しかし一般的に、自然で構えない親しみのあるアナウンスが視聴者に好まれるようになり、個性を売り物にするタレントや、ニュース番組の司会・進行を務めながらコメントもするニュース・キャスターとアナウンサーの境目は、はっきりしていない。また仕事の内容面でも、もっぱら書かれた原稿を読むことから、企画、構成への全面的な参加の方向に質的に変化してきている。これは世界的にみてもいえることである。
なお、日本の名アナウンサーとしてあげられるのは、1936年のベルリン・オリンピックの水泳競技で「前畑がんばれ」の声援放送をした河西三省(かさいさんせい)、名調子の野球放送で知られた松内則三(のりぞう)、島浦精二、二・二六事件(1936)で「兵に告ぐ」の放送をした中村茂らである。第二次世界大戦後では、1945年(昭和20)8月15日、終戦決定の放送を行い、また「話の泉」の司会をした和田信賢(しんけん)、「二十の扉」の藤倉修一のほか、高橋圭三(けいぞう)、宮田輝(てる)らが記憶される。
[後藤和彦]
『日本放送協会編『NHK新アナウンス読本』(1980・日本放送出版協会)』▽『日本放送協会編『NHKアナウンス・セミナー』(1985・日本放送出版協会)』▽『NHKアナウンサー史編集委員会編『アナウンサーたちの70年』(1992・講談社)』
広くは劇場,街頭,駅頭などでマイクロホンを通じて告知する人まで含むが,一般的にはラジオ,テレビで,書かれた原稿を読んだりインタビューをしたりスポーツなどの実況放送をする人のことをいう。放送は最初からこの種の仕事をする人を必要としたので,アナウンサーの歴史は放送の歴史と歩みをともにしている。放送の発展に伴いアナウンサーの仕事も専門化したが,いずれの国においてもラジオ時代に固まったアナウンサーの仕事の内容,要求される素質などは,テレビの時代に入って大きく変わった。今日ではアナウンサー以外の出演者が,司会などかつてはアナウンサー固有の仕事とされていた領域にも進出しており,アナウンサーの仕事は多様化している。放送局間の競争が激化し,またアナウンサーといわゆるタレントとの境目があいまいとなっていく中で,強い個性をもったアナウンサーがむしろ喜ばれる傾向もみられる。
放送の中でのアナウンサーの基本的機能は,放送内容と形式に公式性を付与することといえる。これはなによりも言語表現において明らかである。アナウンサーの言語表現は,いわゆる標準語あるいは共通語として一種の規範性をもつものとされてきた。日本では東京,山手の言語表現を基礎とした標準語が,放送をとおして全国に規範として普及した。アナウンサーにみられるこうした標準語の規範性は,近年その影響力が弱まってきてはいるが,まったく失われたわけではない。アナウンサーが公式性を付与するという機能は,言語表現以外に,番組の形式を標準化するという点にも見いだされる。アナウンサーが番組の前後にアナウンスすることで番組は枠づけされるし,儀式を典型とするようなフォーマルなできごとの放送の場合には,アナウンサーの進行によって番組の公式性が著しく高められる。一般的にアナウンサーが入ることによって,番組は逸脱が防止され標準化されるといえよう。
執筆者:後藤 和彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…障害者などへの差別語や〈不快用語〉を避けるのも,標準語設定への一つの動きといえる。また,放送では,アナウンサーの発音や言葉づかいについての成文化した基準があり,現実の話し言葉としては,NHKアナウンサーの言葉は標準語に非常に近いといえる。このように,書き言葉とそれを背景にした公的な話し言葉においては,標準語に近いものが現に機能しつつある。…
※「アナウンサー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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