日本大百科全書(ニッポニカ) 「アビー」の意味・わかりやすい解説
アビー
あびー
Abiy Ahmed Ali
(1976― )
エチオピアの政治家、軍人。エチオピア中西部の寒村ベシャシャ生まれ。2018年からエチオピア首相。反政府勢力から命をねらわれながらも、隣国エリトリアとの和平を20年ぶりに実現した功績で、2019年にノーベル平和賞を単独受賞した。
10代のころ、当時のメンギスツ軍事独裁政権に対する反政府武装組織(オロモ人民民主機構)に身を投じ、メンギスツ政権崩壊(1991)後の1993年以降、新政権軍の情報諜報(ちょうほう)部門に従事した。2001年にマイクロリンク情報工科大学を卒業し、2017年にアディス・アベバ大学で紛争問題の研究で博士号を取得。2010年にエチオピア下院国会議員に選出され、2015年に科学技術大臣に就任、2018年にエチオピア首相についた。80以上の民族を抱えるモザイク国家エチオピアで最大民族オロモ出身の初の首相である。内政では民族間の宥和(ゆうわ)、政治犯の釈放、女性閣僚の起用、報道の自由容認、国営企業の民営化などを矢つぎばやに実行した。外交では、国境線をめぐる対立から1998年の武力衝突以来、推定10万人が犠牲となった隣国エリトリアとの紛争解決のため、2018年7月にエリトリアを電撃訪問。エリトリア大統領イサイアス・アフェウェルキIsaias Afewerki(1946― )と会談し、和平協定に調印し関係正常化を実現した。
ノーベル平和賞の授賞理由は「平和と国際協力を達成するための努力、とりわけ隣国との国境紛争を解決するための断固とした指導力」で、ケニア、ソマリア、ジブチなどの紛争仲介にも指導力を発揮し、「アフリカの角」とよばれるアフリカ北東部の安定化に尽力したことを評価された。ただアビー首相のノーベル平和賞受賞後も、エチオピアでの民族対立は続き、反政府勢力によるデモなど不安定な国情が続いている。
[矢野 武 2020年2月17日]