日本大百科全書(ニッポニカ) 「クレイグ」の意味・わかりやすい解説
クレイグ
くれいぐ
Edward Henry Gordon Craig
(1872―1966)
イギリスの演出家、舞台装置家、演劇理論家。名女優エレン・テリーを母として1月16日にロンドンに生まれ、子供のころから舞台に出ていた。1900年にパーセルのオペラ『ディドとエネアス』を初演出してから数年の間に、母が出演したイプセンの『ヘルゲランの勇士』やシェークスピアの『から騒ぎ』を含むいくつかの作品を演出。以後国内では実際の舞台とのつながりをほとんどもたず、04年ベルリンでのトマス・オトウェーの『救われたベニス』、11年モスクワ芸術劇場での『ハムレット』など、海外で数少ない、しかし評判をよんだ演出活動を続けた。そのかたわら、『劇芸術について』(1911)をはじめ数多くの著作や雑誌論文では、一貫して写実的な演出を排し、装置、音楽、照明など舞台全体の効果のなかに俳優の演技も融合させて、それを演出家が自らの解釈、ビジョンをもって統一する必要を説き、今日の全体演劇にも一脈通ずるものを示している。したがって、心理的リアリズムに基づくサロン劇や社会問題劇を主流とするイギリスでは受け入れられず、スイスの象徴的な舞台装置家アッピアとともに、他のヨーロッパ諸国やアメリカの演劇に大きな影響を与えた。66年7月29日没。
[中野里皓史]
『エドワード・クレイグ著、佐藤正紀訳『ゴードン・クレイグ――20世紀演劇の冒険者』(1996・平凡社)』