アイルランド史(読み)アイルランドし

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アイルランド史」の意味・わかりやすい解説

アイルランド史
アイルランドし

アイルランドには古くからケルト系の民族が波状的に移住し,多数の部族が分立していたが,2~3世紀頃には五つの部族王国に統合され,そのなかからアード・リー(上王)と呼ばれる有力王が宗主権を握るようになった。アイルランド島には民族大移動が及ばなかったため,4~5世紀に伝わったキリスト教信仰が盛んになり,各部族の抗争を続けながらも 8世紀末までは「学者聖者の島」としてキリスト教文化が繁栄した。9世紀に入ると,当時全ヨーロッパに発展を開始したデーン人バイキング)の侵入が相次ぎ,はなはだしい混乱が生じたが,11世紀初めのクロンターフの戦いによって,一応アイルランド人の主導権は維持された。
12世紀後半,イングランドヘンリー2世はアイルランド征服に乗り出し,各部族を服属させて宗主権を握った。以後イングランド人が多数来島,イングランドの制度や封建制度が導入され,農民の農奴化が進んだ。アイルランドの有力貴族はこれに反発,抗争が続いたが,近代に入って,イングランド王ヘンリー8世は島の再征服に着手,みずからアイルランド王を称し,以後 17世紀なかばのオリバー・クロムウェルの時代までに,イングランドの支配と搾取はいっそう強化され,1801年の合同法によって,正式に併合されることになった(→アイルランド合同)。
アイルランド人の反抗運動は,19世紀に入って当時の国民主義運動の高まりのなかで,しばしば大規模な暴動にまで発展,これと平行してアイルランド固有の文芸を復興しようとの運動がウィリアム・バトラー・イェーツ,バーナード・ショーらを中心に起こされた。この運動のなかから「シン・フェーン(われわれ自身だけで)」との合言葉のもとにアイルランド独立運動が起こり,第1次世界大戦後の 1922年北部のアルスター地方を除いて自治が認められ,アイルランド自由国が成立した。しかしその自治にはなお多くの点で制限があったため,完全な独立を目指す運動はしばしば流血を伴いつつ継続,1937年完全な独立共和国であることが認められ,国名アイレエール)と改称された。さらに第2次世界大戦後の 1949年,国名は再びアイルランド共和国と改められ,イギリス連邦をも離脱して今日にいたっている。
イギリス内にとどまった北アイルランドでは,内部にカトリック系住民(アイルランド人)とプロテスタント系住民との深刻な対立をかかえている。カトリック系住民は公民権上の差別撤廃と南北アイルランドの統合を求めて,しばしば流血の反乱,暴動を引き起こしたが,1993年12月アイルランドのアルバート・レイノルズ首相とイギリスのジョン・メージャー首相が共同和平宣言を発表した(→北アイルランド紛争)。

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世界大百科事典(旧版)内のアイルランド史の言及

【アイルランド文学】より

…つまり,文学技法の改革よりも,民族固有の主題の発見を重視する運動であり,本来,ロマン主義文学の系譜につらなるものである。文学運動の実践をうながす直接のきっかけとなったのは,オグレーディStandish James O’Grady(1846‐1928)の《アイルランド史》2巻(1878‐80)である。彼がここに集成したアルスター伝説群には,王コノハーの奸智,デアドラの悲恋,英雄クーフリンの武勲などをめぐる物語が含まれており,イェーツ,グレゴリー夫人,シングをはじめ,G.W.ラッセル(筆名AE),J.スティーブンズらの文学者にかっこうの素材を提供することになった。…

【ケルト人】より

… これらの話を近代になってマクファーソンが翻案集大成して《オシアンの詩》(1762‐63)として世に出したため,ワーズワースをはじめゲーテ,シャトーブリアンら各国の詩人作家たちに影響を与えた。また古文書を基にアイルランドのオグレーディStandish James O’Grady(1846‐1928)が書いた《アイルランド史》(1878‐80)は,19世紀のW.B.イェーツ,グレゴリー夫人,J.M.シング,エー・イーAE(本名George William Russell,1867‐1935)らを刺激して神話を題材としたさまざまな作品を書かせ,アイルランド文芸復興運動を促進させた。ガリアケルト語派ケルト美術【井村 君江】。…

※「アイルランド史」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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