翻訳|llama
哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目ラクダ科の動物。別名アメリカラクダ。また、リャマ、ヤマともいう。原種はすでに絶滅したと考えられ、現存しているのはすべて家畜種で、南アメリカのアンデスの高地に分布する。体長2.25メートル、体高1.2メートル、尾長15センチメートル、体重70~140キログラム。ラクダ科に属するが、背中のこぶはなく、コブナシラクダなどとよばれることもある。頸(くび)や四肢は長くて細く、体毛は羊毛状で長い。体色は変化に富み、白色、黒褐色、褐色あるいは斑(はん)などがみられる。耳介は大きく、尾は短く房毛は存在しない。足の底は幅が狭く2本の指に分かれ、先端にひづめ状のつめがある。性成熟は24か月で、とくに定まった繁殖期はなく、11か月ほどの妊娠期間を経て、1~2子を出産する。生まれた子は20分ほどで起立し、2時間ほどで哺乳する。新生子の体重は12~15キログラム。
[中川志郎]
ペルー高地、フニン地方のテラルマチャイ洞穴から得られた考古学的資料によれば、ラマの家畜化の証拠は紀元前5200~前4000年ごろにさかのぼる。やがてラマは海岸地方も含め中央アンデス地域一帯で飼育され、16世紀にスペイン人が侵入するまで、土着文化において重要な役割を果たしてきた。主として採毛用に飼育された近縁種のアルパカと異なり、ラマは多目的に利用できる。小形なので人や重い荷を運ぶことはできないが、30~40キログラムの荷なら楽に運べるため、まず運搬手段として重要で、毛は目の粗い織物の原料に、また皮は履き物や紐(ひも)の材料に、糞(ふん)は燃料として利用された。乳は飲用にされることはなかったが、肉は積極的に利用され、とくに保存食として干し肉(チャルキ)をつくる技術が発達した。犠牲獣としての用途も重要で、インカ時代にはもっぱら宗教的目的で国家が飼育するラマが存在し、神々への供え物として、と畜され、聖なる火に投じられた。また肺や心臓などの内臓を取り出して占いが行われることもあった。
現在アンデスの北部および海岸地帯では、ヨーロッパ伝来の家畜がほぼ完全にラマにとってかわったが、南部山地のインディオ村落ではラマは依然として重要で、とくに海抜4000メートルを超える高原部には「リャメーロ」とよばれる牧民が住み、伝統的なラマ、アルパカの飼育を続けている。彼らはキャラバンを組んで農村へ下り、農作物と交換にチャルキや岩塩を届けたり、畑の収穫物をラマの背に乗せ、その運搬を請け負っている。
[松本亮三]
首が長くラクダに似るが,はるかに小型で背にこぶがない偶蹄目ラクダ科の哺乳類。リャマ,ヤマともいう。南アメリカ西部および南部の平地から標高5000mの地域の半砂漠地帯で家畜として飼われる。体長2m,尾長20cm,肩高1.2m,体重60~75kgほど。アンデスからパタゴニアにかけて野生するグアナコL.guanicoeを飼い慣らしたものといわれたが,現在ではまったくの別種と考えられている。体の大きさや後足のかかとの下方(中足部)の内外両側には楕円形の毛のない部分,すなわち“たこ”がある点などでグアナコに似る。しかし,体色はふつう白色か,または白色の地に褐色か黒色の斑紋があり,ときには全身黒色か褐色のこともある。インカ時代に家畜化されたものであろうが,正確な年代は不明である。スペイン人が侵入したころ,インカの銀鉱山では30万頭のラマが使役されており,古くからきわめて重要な家畜であったことが推察される。
現在はアルパカとともに,南アメリカのアンデス高地特有の家畜で,主として,ペルーからボリビアにかけての高原地帯において,ケチュア族とアイマラ族によって飼育されている。アルパカより大きく,力も強い。牧草や気候に対する適応力もあり,雄は荷役運搬用として使われる。50kg弱の荷を負い,1日20km程度歩くことができる。乗用には使われない。他にウマなどの大型家畜が存在しなかった先スペイン期においては,唯一の輸送手段として,インカ帝国の膨張などに重要な役割を果たした。現在も牧民にとっては農民との交易などのため欠くことができない。とくに4月から6月にかけての雨季あけの収穫期には,数十頭のラマを連ねたキャラバンが,草原や険しい峡谷の道を進む姿がよくみられる。肉は食用にされるが,乳は利用されない。他に皮は皮革用,脂肪は灯火用,糞は燃料用とされる。毛も衣類用として利用されるが,アルパカほど良質ではない。
他にアンデス山地にはラマに似たビクーナもすむ。
執筆者:今泉 忠明+稲村 哲也
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