家畜化とはヒトが動物の生殖を管理し,管理を強化していく過程をいう。英語domesticationは植物に対しても用いられ,その場合には栽培化あるいは作物化という訳語が与えられる。上の定義から,家畜化とは動物に加えられる自然淘汰が人為淘汰に置き換えられていく過程であるともいえるし,また自然から与えられるものとしての資源でしかなかった動物が,再生産を人為的にコントロールできる資本へと変化する過程であると表現することもできる。家畜化がおこるためには,自然,ヒト,動物それぞれの側に要因がなければならない。自然的要因としては,例えば気候が乾燥化して,ヒトと動物とが水場に集合し,そこで両者が接触するというような状況,ヒトの側の要因としては,狩猟対象動物の個体数増加が人口増加に追いつかなくなったとか,あるいはヒトによる火入れが,原野の動植物相に大きな変化をもたらしたというような事情が考えられる。また動物側の要因として,ヒトによって攪乱された環境へみずから接近し,入りこむ性向(雑草的生態)の強弱は,家畜化されるか否かを大きく左右する。雑草的植物がしばしば作物化されるように,この性向をもった動物ほど家畜化されやすい。家畜化が一つの過程であるという事実は,野生動物の保護や餌づけのような家畜化への中間段階の存在や,ニワトリやブタのように歴史の古い家畜種がその野生原種と遺伝的交流をいまなお行っている例,あるいはヤギのように一度家畜化された動物が再野生化する例などによって明りょうに理解される。トナカイは北米大陸では純然たる狩猟対象動物であるが,旧大陸では騎乗や搾乳にまで及ぶ多様な牧畜的利用が見られ,家畜化が連続的な過程であることを如実に示している。
動物が家畜化されると,形態や機能に変化がおこる。生殖器や生殖機能にあらわれる変化が普遍的で,かつ最も著しい。下垂体,卵巣,精巣のような器官の重量が増大して,卵子・精子の形成が早くなり,卵胞数は増加し,子宮が大となって産仔(さんし)数が増し,乳腺の発育が向上して育仔能力が増大する。かような変化は,ヒトが,用途のいかんにかかわらず,財としての家畜の増殖には最も強い関心をいだき,生殖能力にこそ恒常的かつ強力な人為淘汰が加えられるからにほかならない。それに反し,対ストレス反応,疾病防御,代謝などは機能低下をきたす場合が多い。また脳重量の減少,短頭化,骨組織の脆弱(ぜいじやく)化,筋の退化あるいは体毛の減少などがしばしば見られる。このような形態的変化およびそれにともなう生態的・行動的変化のいくつかが,人類進化の過程にも見られるところから,ヒト化hominizationをヒトの自己家畜化self-domesticationであるとみなす立場もある。集団レベルの変化としては,毛色多型coat-color polymorphismが各家畜種を通じ広く認められ,あるいは奇形的機能や形態が家畜品種の特徴となることもある。これは家畜化により自然淘汰圧が低下し,人為淘汰圧が強化されたことの結果と考えられる。
執筆者:野沢 謙
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…それらは一般的には一つの目的に利用されたのではなく,多くの目的に利用された植物であったと想像される。 やがてこれらの植物をさらに積極的に人間の生活の場の周辺に植えることにより,それらをしだいに栽培化domestication(この語は動物の場合には家畜化と訳す)するという方向に移行していったものと考えられる。このようにして人間は,自然から得た植物資源に生活を依存する生活から,食料を計画的に生産する段階に到達し,農耕が起源したのである。…
※「家畜化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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