翻訳|pole vault
陸上競技の跳躍種目の一つ。ポールを持って助走し、地面に埋められた長さ約1メートルのボックスにポールを突っ込み、ポールのしなりと反発力を利用して体を空中に持ち上げてバーを越す競技。ポールの材質、長さ、太さに制限がないため、陸上競技のなかでは用具の改良によってもっとも記録が伸びた種目となっている。
ポールは当初ヒッコリーなどの木の棒が使われていたが、1900年代に入ると日本産の竹が世界で注目され始めた。木に比べると折れにくいうえに弾力性があり重宝された。しかし第二次世界大戦が始まり日本からの竹の輸入がストップすると、外国ではスチール製のポールが開発された。だが、これは折れないという点では竹に勝ったが、重すぎるという欠点があった。1961年ごろになると、今度はグラスファイバー・ポールという革命的なポールが出現した。特殊ガラスの繊維でつくったもので、従来のポールよりずっと強い弾力と反発力があるうえに軽い。この弓のように大きく曲がるポールの反発力によって、記録は飛躍的に伸び、スチール時代に4メートル80センチ(1960年)だった男子の世界記録は2020年3月時点で、アルマンド・デュプランティスArmand Duplantis(スウェーデン。1999― )の6メートル18センチ(2020年)にまでなっている。女子はエレーナ・イシンバエワYelena Isinbayeva(ロシア。1982― )の5メートル06センチ(2009年)。
無効試技と判定されるのは、(1)バーが競技者の跳躍中の動作によって落ちたとき、(2)バーを越える前に、体のいかなる部分またはポールが、ボックス先端(上部内側)の垂直面を越えた地面あるいは着地場所に触れたとき、(3)踏み切ったあと、下のほうの手を上のほうの手の上に移し、あるいは上のほうの手をさらにポールの上方に移したとき、(4)競技者が落ちそうになっているバーを手や指で故意に元に戻したとき、(5)審判の合図があった後、一定時間内に試技を開始しないとき、などである。なお、競技中にポールがこわれた場合は試技には数えない。手袋の着用は認められる。
競技者はバーの位置をボックスから奥に80センチメートルまでの範囲内で自由に変えることができる。
競技者はどの高さから試技を始めてもよく、そのあとどの高さを跳んでもよい。途中の高さを抜いて(パス)次の高さに挑むこともできる。ただし、3回続けて失敗すれば、次の試技を続けることはできない。たとえば4メートル80センチを1回目、2回目とも失敗したあと、3回目にあたるその高さをパスして4メートル85センチに挑戦できる。しかし、この場合は残る1回(3回目)しか試技のチャンスはなく、そこで失敗すれば次の高さへの挑戦権を失う。同記録の場合の順位決定は、(1)同記録になった高さで、試技数のもっとも少なかった者を勝ちとする。(2)(1)の方法で決められないときは、同記録を生じた高さまでの全試技数のうち、無効試技数(失敗)がもっとも少なかった者を勝ちとする。(3)それでも決まらないときは同順位とし、1位を決定するときに限り、ジャンプオフを行う。ジャンプオフを事前に行わない取決めがあったり、当該選手がこれ以上跳躍しないと決めた場合は実施されない。競技者が最後の一人になり、優勝が決まるまでは、バーは5センチメートルより少ない上げ下げをしてはならない。優勝が決まった後は競技者の希望を聞いたうえで審判が上げ幅を決定する。
オリンピックでは、男子は1896年のアテネ大会から、女子は2000年のシドニー大会から正式種目となった。第二次世界大戦前は日本の得意種目の一つで、オリンピックでも西田修平が1932年(昭和7)のロサンゼルス大会で2位、1936年のベルリン大会でも西田は大江季雄(すえお)と2、3位を分け合い、銀、銅のメダルを半分ずつつなぎ合わせた「友情のメダル」のエピソードでも知られる。
[加藤博夫・中西利夫 2020年4月17日]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…合成ゴムを流し込んで固めたこのトラックは,どんな雨の日でも競技を可能にする全天候型で,さらにその弾力性ゆえに競走種目や跳躍種目の記録が大幅に向上するという副産物をもたらした。用具の進歩では棒高跳びのポールが挙げられる。木から始まって日本製の竹,そして戦後はスチールと変化していったポールは,1960年代に出現したグラスファイバー・ポールによってイメージを一変した。…
※「棒高跳び」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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