生命の働きを解き明かす生命科学を技術的に活用した産業。紀元前から知られていた発酵のほか、組織培養、細胞融合、遺伝子組換えなどの先端技術を駆使し、健康・医療、食品・農業、環境・資源エネルギー、電子・情報など広範な分野で産業化が試みられている。環境に優しい循環型社会の基盤となると同時に、雇用創出につながると期待されている。一方で、バイオ技術は生命倫理や安全性に配慮した慎重な扱いが必要との指摘もある。
健康・医療分野では、医薬品の生産、バイオ診断などの予防医療、テイラーメイド医療、再生医療などにより長寿化と医療費の抑制が期待される。とくに京都大学教授山中伸弥(しんや)(1962― )が人の皮膚から臓器や神経、筋肉などへ分化するiPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製に世界で初めて成功し、その実用化に期待が高まっている。食品・農業分野では機能性食品、遺伝子組換え作物、微生物活用型の肥料・農薬の開発が課題となっており、環境・エネルギー分野ではバイオマス(生物資源)エネルギーやバイオプラスチックの開発などが期待されている。バイオ素子を活用した情報技術との融合、医療・分析機器の開発なども有望な分野とされる。産業化を促すため、バイオベンチャーの育成や、大学や関連企業を一定地域に集積するバイオクラスターづくりも進んでいる。
ただバイオ産業は広範にわたるため、アメリカ政府はゲノム(遺伝情報)創薬や遺伝子治療などの優先分野を決めることによって成果をあげた。日本政府も2002年(平成14)に、バイオ産業の市場規模を2010年に25兆円に育て、100万人を超える雇用創出を目ざすバイオテクノロジー戦略大綱を決定した。
[編集部]
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