万能細胞(読み)バンノウサイボウ

デジタル大辞泉 「万能細胞」の意味・読み・例文・類語

ばんのう‐さいぼう〔‐サイバウ〕【万能細胞】

さまざまな組織細胞へと分化できる能力を持つ未分化の細胞。再生医療に役立つとして研究されている。ES細胞胚性幹細胞)・iPS細胞誘導多能性幹細胞)などがある。分化多能性細胞。多能性幹細胞多能性細胞。→幹細胞

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共同通信ニュース用語解説 「万能細胞」の解説

万能細胞

神経筋肉血液など体のさまざまな組織や細胞になる能力がある細胞。受精卵の一部を取り出して作る胚性幹細胞(ES細胞)や、京都大の山中伸弥やまなか・しんや教授作製を報告した人工多能性幹細胞(iPS細胞)が代表例。iPS細胞は通常、皮膚などの体細胞に遺伝子を導入して作る。事故や病気で失った組織や機能を修復する再生医療や創薬、病気のメカニズム解明への応用に向け研究が進む。ES細胞は受精卵を壊すため倫理面の課題や、移植した際の拒絶反応の問題がある。iPS細胞はがん化を防ぐなど安全性の向上が課題となっている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「万能細胞」の意味・わかりやすい解説

万能細胞
ばんのうさいぼう

人体のどの組織にもなる能力をもった細胞で、再生医療のキーポイント。万能細胞の作製は、1998年にアメリカ・ウィスコンシン大学グループが受精卵の途中段階を操作してつくりだした胚(はい)性幹細胞(ES細胞)が最初であるが、2007年(平成19)11月、京都大学再生医科学研究所の山中伸弥(しんや)(1962― )らが、人の皮膚細胞から、受精卵を使わない人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作製に成功したと国際誌『セルCellに発表し、万能細胞を使った再生医療がにわかに現実味を増してきた。受精卵や卵子の応用には宗教界などからの強い批判があり、アメリカ政府は研究費の支出を拒否しているが、山中らは普通の皮膚や関節内細胞を万能細胞に変え、垣根を越えた。再生医療の実現が近づいた分、世界的な研究競争が加速している。日本の研究が世界をリードし続けるには、突出した少数の研究者だけでは重荷で、幅広い分野での技術力の向上が重要であろう。

[田辺 功]

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知恵蔵 「万能細胞」の解説

万能細胞

京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授を中心とする研究グループが作り出した、心臓や胃腸など、どんな器官にもなりうる分化多能性を持った細胞のことを指す。ヒトなどの高等生物では細胞の機能分化が速く、原則として受精卵以外に万能細胞は存在しないのだが、山中教授は、ありふれた皮膚細胞に遺伝子を入れて万能細胞を人工的に作り出した。これまでは、受精卵から万能細胞(正確にはES細胞)を作ることはできたが、これだと生命の可能性を壊すことになり、生命倫理的に問題視されてきた。今回の成功は、その壁をクリアしたわけで、ノーベル賞級の偉業といわれている。完全な実用化にはまだ問題が山積しているが、日本政府も、国家プロジェクトとして支援する構想を打ち出している。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

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