iPS細胞(読み)アイピーエスさいぼう

朝日新聞掲載「キーワード」の解説

iPS細胞

血液や皮膚の細胞からつくることができる万能細胞。無限に増やせ、体の様々な細胞になれる。人の組織に変えて移植する「再生医療」のほか、これを使って薬の候補を探し出す「創薬」への応用が期待されている。ストック計画のiPS細胞を目の細胞に変えて網膜の病気を治療する臨床研究を今年、理化学研究所などのチームが始めたほか、神経の細胞に変えて脊髄(せきずい)損傷の患者を治療したり、心臓の筋肉の細胞に変えて重い心不全の患者の手術に使ったりするための準備が進む。山中所長らの研究グループが2006年にマウス、07年にヒトで初めて作製に成功し、山中さんは12年にノーベル医学生理学賞を受賞した。

(2017-12-06 朝日新聞 朝刊 2総合)

iPS細胞

血液や皮膚の細胞から作ることができる万能細胞。一定条件で培養すれば無限に増やせ、体の様々な細胞にできる。けがや病気で失った細胞を、iPS細胞から作って補う「再生医療」への応用が期待されている。理化学研究所などのグループが目の難病でiPS細胞を使った世界初の臨床研究を始めているほか、パーキンソン病や脊髄(せきずい)損傷などでも実施に向けて計画が進む。

(2018-05-16 朝日新聞 夕刊 1総合)

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デジタル大辞泉の解説

アイピーエス‐さいぼう〔‐サイバウ〕【iPS細胞】

induced pluripotent stem cell万能細胞の一種。幹細胞と同様に増殖して各種の細胞へと分化することが可能な細胞。平成18年(2006)、山中伸弥らがマウスの体細胞初期化因子とよばれる数種類の遺伝子を導入することで、初めて作製に成功。ES細胞は受精卵から採取して作るため倫理的に問題があるが、この細胞は皮膚細胞などから作り出すことができる。また、自分の体細胞から臓器などを作れば拒絶反応を回避できるため、再生医療への応用が期待される。誘導多能性幹細胞新型万能細胞人工多能性幹細胞
[補説]頭文字の小文字の「i」は、当時流行していた米国アップル社のデジタルオーディオプレーヤーiPodのように世界中に普及してほしいという山中の願いから付けられた。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

百科事典マイペディアの解説

iPS細胞【アイピーエスさいぼう】

2006年8月,山中伸弥京大教授(現iPS細胞研究センター長)がマウスの皮膚細胞(線維芽細胞)からES類似細胞を樹立(2005年)と発表し,この細胞をiPS細胞(人工多能性幹細胞)と命名した。iPS細胞は見た目も機能もES細胞とまったく同じで万能細胞である。ヒト胚(性)幹細胞(ES細胞)は,ヒトのあらゆる組織に分化する能力をもったまま無限に増やすことができるため,万能細胞(あらゆる組織・臓器に分化しうる細胞)として再生医療での期待が高い。しかし,ES細胞は受精卵からつくるため倫理的・技術的困難さに加え拒絶反応などの問題があり,1998年アメリカで技術が確立されて以後,世界中で研究が活発に行われてきたものの,拒絶反応問題を克服するため,クローン胚(未受精卵から核を抜き取り体細胞核をかわりに入れる。日本では禁止されている。また霊長類ではすぐ死んでしまう)からES細胞をつくる動きとなった。しかし,韓国の黄禹錫(ファン・ウソク)教授のねつ造事件の影響も加わって,別の研究が加速されていった。ES細胞も各臓器固有の体細胞も遺伝子情報は全く同じであり,様々な遺伝子の発現などの違いだけであるため,従来の研究から多能性誘導因子(PIF),転写遺伝子を突き止めれば,体細胞から万能細胞を樹立することが可能である。iPS細胞は当初マウスの皮膚細胞にレトロウイルスを使って4つの遺伝子因子を組み込む(細胞の初期化という)ことによって樹立された。その後,2007年11月ヒト皮膚細胞からiPS細胞が樹立され,2008年には山中の研究で3つの遺伝子で可能となり,2008年5月には海外からの報告で1つの遺伝子で,さらに合成物でも可能と,加速度的に研究が進んでいる。この技術が完成すれば臓器移植ではなく細胞移植が可能となり再生医療が飛躍的に発展,病因究明,創薬にも大きく貢献すると考えられている。倫理的問題をクリアしたとはいえ,時間と費用,癌化の問題など臨床的課題は依然として多いが,再生医療の道筋が見えた意義はきわめて大きい。また,遺伝子の転写因子の究明(理化学研究所),レトロウイルスベクター(東大)などは日本発の技術であり,これらを下敷きにしたiPS細胞樹立の研究・技術は日本発の世界的知的財産である。日本,米国,ヨーロッパなどで特許が成立している。2010年4月,基礎研究から応用研究までを推進し再生医療を実現するために,京都大学iPS細胞研究所が設立(山中伸弥所長)された。2012年,山中伸弥はノーベル生理学・医学賞を受賞,日本ではiPS細胞などを用いた再生医療を一大医療産業に育成して成長戦略の柱にするという機運が盛り上がった。iPS細胞などが実際の治療場面で十分に活用されるには,クリアされるべき応用研究上の課題が山積しており,さらに産業化のためには,柔軟な試行錯誤を許容する仕組みが必要となる。国にはそのための仕組みづくりと研究開発のための強力な支援体制が求められる。2013年,高橋政代(理化学研究所多細胞システム形成研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクトリーダー)らのiPS細胞による加齢黄斑変性治療の臨床試験が承認され,2014年9月,自己由来のiPS細胞を患者へ移植する臨床研究を世界で初めて実施した。2014年2月には京都大学iPS細胞研究所の高橋淳らのグループがドーパミンを分泌する神経細胞を大量に作製する方法に成功。高橋らは2014年8月に患者自身の細胞から作製したiPS細胞による臨床研究を開始し,再生医療を実現させる構想を発表した。自己由来と健康な他人由来のiPS細胞による再生医療を2018年にはスタートさせる計画である。2014年3月,慶應大学の中村雅也准らのグループが脊髄損傷の患者に対するiPS細胞の臨床研究を2017年度に始める計画を発表した。さらに,2015年2月,国立成育医療研究センターなどからなる研究グループが,ヒトのiPS細胞から神経線維(軸索)を有する視神経細胞の作製に世界で初めて成功したと発表。研究グループは,緑内障に伴う視神経の障害,視神経炎などの治療薬開発,視神経が冒される疾患の病態解明などにつながることが期待されるとしている。
→関連項目再生医療法STAP細胞

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