総角・揚巻(読み)あげまき

精選版 日本国語大辞典 「総角・揚巻」の意味・読み・例文・類語

あげ‐まき【総角・揚巻】

[1] 〘名〙
上代幼童の髪の結い方の名。髪を中央から左右に分け、両耳の上に巻いて輪をつくり、角のように突き出したもの。成人男子の「みづら」と似ているが、「みづら」は耳のあたりに垂らしたもの。中国の髪形「総角(そうかく)」がとり入れられたものか。
書紀(720)崇峻即位前(図書寮本訓)「十七、八の間は分けて角子(アケマキ)にす」
※十巻本和名抄(934頃)一「総角 毛詩注云総角〈弁色立成云阿介万岐〉結髪也」
② 髪をあげまきに結った少年。また、その年頃
※書紀(720)景行四〇年(北野本訓)「我が子小碓王(をうすのみこ)、昔熊襲(くまそ)の叛きし日に、未だ摠角(あげまき)にも及(あ)らぬに」
浄瑠璃・暦(1685)一「ゑいじあげまきの御時よりそだて奉りてうつくしみ」
③ 紐の結び方の名。輪を左右に出し、中を石だたみに組んで結び、房を垂らしたもの。御簾(みす)、文箱(ふばこ)などの飾りに使う。あげまき結び。
※枕(10C終)二〇一「御簾(みす)の帽額(もかう)、あげまきなどにあげたる鈎(こ)のきはやかなるも、けざやかに見ゆ」
源氏(1001‐14頃)総角「あげまきに長き契りを結びこめおなじ所によりもあはなむ」
④ 鎧の背の逆板(さかいた)に打ちつけた環に通して③の結び方をした飾り紐。
※源平盛衰記(14C前)二〇「十五束よく引堅めて放ちたれば、楯を通し、冑(かぶと)の胸板、後のあげ巻(マキ)へ射出だしたり」
⑤ 平安時代、相撲(すまい)節会(せちえ)に相撲を取る役名の一つ。〔十巻本和名抄(934頃)二〕
芝居で、傾城(けいせい)に扮する俳優が用いる、③の結び方の飾りの房を背面につけた、立兵庫(たてひょうご)かつら
⑦ 紋所の名。③にかたどったもの。
※歌舞伎・廓の花見時(助六)(1764)二番「杏葉(ぎゃうえふ)牡丹と揚巻と、この二つの紋を付けて御座る女郎衆を尋ねまする」
⑧ 明治一八年頃から二六、七年頃まで流行した一種の束髪。
朝野新聞‐明治一八年(1885)九月三日「上巻にても英吉利結にても差閊なく結び得るより」
⑨ =あげまきがい(総角貝)《季・春》 〔名語記(1275)〕
[2]
[一] (揚巻) 歌舞伎の「助六」で、助六の相手方となる遊女万屋助六と心中した京都島原の遊女総角がモデルとされる。
[二] (揚巻) 長唄助六姿裏梅(すけろくすがたのうらうめ)」の通称。三世桜田治助作詞。十世杵屋六左衛門作曲。歌舞伎所作事、安政四年(一八五七)江戸中村座初演。
[三] (総角) 「源氏物語」第四七帖の名。宇治十帖の第三。薫二四歳の八月から一二月まで。大君は求愛する薫を妹の中君へと考えるが、中君は匂宮と結ばれてしまう。身分柄、宇治訪問もままならない匂宮に、大君は中君の将来を憂いつつ死ぬ。
[四] (総角) 神楽歌の名称。「神楽歌‐小前張・総角」の「〈本〉安介万支(アケマキ)をわさたにやりて や そをもふと」をさす。
[五] (総角) 催馬楽の呂の歌の曲名。「催馬楽‐総角」で、「あげまきや とうとう」で始まるものをさす。

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