日本大百科全書(ニッポニカ) 「アイヒンガー」の意味・わかりやすい解説
アイヒンガー
あいひんがー
Ilse Aichinger
(1921―2016)
オーストリアの作家で、ウィーンのユダヤ系一家に生まれる。第二次世界大戦中の迫害された生活体験をもとに、ユダヤ人を母親にもつ少女の不幸と夢を超現実風に描いた『より大きな希望』(1948)で作家活動に入る。1952年に「鏡の話」で「グループ47賞」を受賞。「鏡の話」を含むカフカ風な短編集『縛られた男』(1953)によって、人間の実存を極度に切り詰めた事例とことばで描く短編作家として知られる。しかし1953年、詩人ギュンター・アイヒと結婚したあとは詩や脚本の分野の仕事が多く、現実性の希薄な短い情景脚本『一時間経たないうちに』(1957)やラジオドラマ集『オークランド』(1969)、夢想的な詩を集めた『贈られた助言』(1978)、その他詩と短編集『私の住んでいるところ』(1963)、ほとんど宗教的な小品集『悪い言葉』(1976)などがある。比較的寡作な作家だが、夫の死(1972)後は極端に作品が少ない。
[早崎守俊]
『根本萠騰子訳『悪い言葉』(1988・第三書房)』▽『眞道杉ほか訳『縛られた男』(2001・同学社)』▽『小林和貴子訳『より大きな希望』(2016・東宣出版)』