はやぶさ(読み)はやぶさ(英語表記)MUSES-C

共同通信ニュース用語解説 「はやぶさ」の解説

はやぶさ

2003年5月に打ち上げられた日本の小惑星探査機。05年11月に地球と火星の軌道の間にある小惑星イトカワに着陸し、通信途絶やイオンエンジンの故障など数々のトラブルに見舞われたが、10年6月に地球へ帰還した。回収されたカプセルからは微粒子約1500個が見つかり、小惑星で試料を採取して地球に持ち帰るサンプルリターンに世界で初めて成功した。後継機の「はやぶさ2」が14年12月に打ち上げられ、小惑星りゅうぐうに向かって飛行を続けている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「はやぶさ」の意味・わかりやすい解説

はやぶさ(小惑星探査機)
はやぶさ

月惑星探査に必要なイオンエンジンと自律航法の技術実証、および小惑星探査と表面物質の地球への持ち帰りを目的とした日本の小惑星探査機の小惑星探査技術実証機。大きさは1メートル×1.6メートル×2メートルほどで、質量は510キログラム(含燃料)。宇宙航空研究開発機構JAXA(ジャクサ))の開発による。

 「はやぶさ」(プロジェクト名MUSES-C)は、2003年5月9日に打ち上げられ、新開発のイオンエンジンによる微小な加速を蓄積して航行し、2005年9月に目標の小惑星イトカワに到達した。そして小惑星の形状、表面状態などの近接撮影、重力場測定などを行い、科学データを地球へ送信した。同機は2005年11月、世界で初めて小惑星への着陸および離陸に成功した。接地時における表面物質採取装置の稼働は確認できなかったが、離陸後、地球への帰還軌道への投入と軌道制御に成功した。2010年6月13日に地球大気圏に再突入し、資料回収カプセルをオーストラリアの計画地点へ軟着陸させた。11月にはカプセル内の微粒子がイトカワ由来のものであることが明らかになった。

 「はやぶさ」は、世界初の小惑星サンプルリターンを目指す探査機として打ち上げられ、革新技術によるイオンエンジンを使う高効率飛行で小惑星の軌道に到達し、イトカワと並行して公転しながら観測および着陸接地を行った。同機により、イオンエンジンの長期運用、および、電波指令が大きく遅延する超長距離にある自動航法システムの複雑な作動が成功したことで、惑星空間での探査機の長期にわたる複雑かつ柔軟な運航が可能であることが実証された。太陽を背にして小惑星の表面に映った自機の影を写し込んだ写真は有名である。

 「はやぶさ」の7年間にわたる小惑星往復航行の経過は以下の通り。

2003年5月9日 内之浦宇宙空間観測所からM-Ⅴロケットによって打ち上げられる。

2004年5月 地球スイングバイ(天体の重力を利用した軌道変更)に成功。

2005年9月12日 小惑星イトカワに到達。イトカワからの距離が20キロメートルの空間に静止。

9月30日 イトカワから7キロメートルの距離まで降下。

11月20日 「はやぶさ」第1回目のイトカワ着陸。後のデータ解析により、6時10分ごろ「はやぶさ」が着陸していたことがわかる。「はやぶさ」は2回のバウンド(接地)を経て、約30分間イトカワ表面に着陸。世界初の小惑星への軟着陸に成功。その後、地上からの指令でガスジェットを噴かして上昇。

11月25日 第2回目の着陸。3回目の接地に成功。その後、地表面に鉛直上方に離陸上昇。

12月8日 再度の燃料漏れが発生。燃料等のガス噴出によると思われる外乱により、探査機の姿勢を喪失。地上の管制センターと探査機の交信がとだえる。「はやぶさ」は姿勢喪失のため、太陽電池発生電力が極端に低下し、いったん電源が完全に落ちたもよう。

2006年3~4月 探査機内に漏洩(ろうえい)した揮発性ガスの排出を行う。

5月 イオンエンジンの起動試験に成功。

7~9月 放電してしまったリチウムイオン電池の再充電を行う。リチウムイオン電池は帰還カプセルの外蓋(そとぶた)を閉めるのに必要。

2007年1月 探査機内の試料採取容器を地球帰還カプセルに搬送収納し、帰還カプセルの外蓋を閉める。

2月 イオンエンジンの運転のための新しい姿勢制御方式を採用、試験を実施。

3月 イオンエンジンの試験運転を行う。

4月 地球への帰還に向けたイオンエンジンの巡航運転を開始。イトカワの軌道を離脱。

2010年6月13日 地球に帰還。地球大気圏に再突入し、オーストラリアの砂漠への軟着陸に成功。資料回収カプセルが回収された。

11月 回収された約1500個の微粒子(ほとんどが大きさ10マイクロメートル以下)を調べた結果、微粒子の鉱物種と成分割合が隕石(いんせき)の特徴と一致し地球の岩石とは合わない、「はやぶさ」が観測したイトカワ表面の鉱物成分のデータと一致した、回収された資料容器内に地球上の一般的な岩石は見つからなかったことから、帰還カプセルに入っていた微粒子はイトカワ由来のものと判明した。小惑星の粒子の採集は世界初の快挙である。なお、「はやぶさ」のサンプル採取装置は故障して作動しなかったが、着陸の衝撃でイトカワの表面物質を飛散させた結果、帰還カプセル容器内部に微粒子を付着させることができた。

[岩田 勉]



ハヤブサ
はやぶさ / 隼
falcon

広義には鳥綱タカ目ハヤブサ科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。この科Falconidaeの仲間は世界中に約60種があり、日本には7種が分布している。タカ科の鳥によく似た昼行性の猛禽(もうきん)で、嘴(くちばし)は先がとがって鋭く、上嘴の先端近くに鉤(かぎ)がある。全長20~60センチメートルで、体の大きさは大小さまざまである。原野、海岸など開けた場所にすむ。翼の先はとがっていて、速い羽ばたきと短い滑翔(かっしょう)を交互に行って直線的に速く飛ぶ。また上昇気流にのって、輪を描いて飛んでいることもある。獲物は大形種は主としてカモ類や小鳥などの鳥類、小形種は昆虫類で、鳥類は飛んでいるところをみつけると上から急降下して体当たりし、足でけ落としてつかまえる。チョウゲンボウ類は停空飛翔をして地上の獲物にねらいをつけ、急降下して昆虫、ネズミカエルなどをつかみとる。

 種のハヤブサFalco peregrinusは世界中に分布する鳥で、日本でも海岸や山地の絶壁に巣をつくり繁殖するものが少数あるほか、冬鳥として渡来するものもあり、冬には全国的にみられる。全長約45センチメートル、体の上面は青灰黒色、下面は白色で黒い横斑(おうはん)がある。目の下にある黒いひげ状の斑は、光を吸収してまぶしさを防ぐといわれる。シギやカモなどの水鳥をとらえることが多く、昔は鷹狩(たかがり)によく使われた。飛翔は速く時速約60キロメートル、急降下のときには200キロメートルを超える。

 シロハヤブサF. rusticolusはハヤブサ類のなかではいちばん大形で、全長約60センチメートル。北極圏で繁殖し、冬鳥としておもに北海道に渡来するが、数は少ない。体は白くて黒い斑点がある。チゴハヤブサF. subbuteoは小形で、全長約30センチメートル、日本では北部で繁殖し、冬には温暖地でもみられる。翼は長くて先がとがり、飛翔は速い。上面は青灰黒色、下面は白地に黒い縦斑があり、ももは赤褐色である。日本に渡来するハヤブサ科の鳥にはほかにコチョウゲンボウアカアシチョウゲンボウ、チョウゲンボウなどがある。

高野伸二


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知恵蔵 「はやぶさ」の解説

はやぶさ

宇宙科学研究所ISAS(宇宙航空研究開発機構JAXAの宇宙科学分野担当部門)が開発した宇宙探査機。小惑星の探査やイオンエンジンの実証を目的として2003年5月9日に打ち上げられ、05年には小惑星イトカワに到達・着陸を果たし、10年6月13日には最後のミッションとなる地球帰還に成功した。
はやぶさのミッションは市民の間でも大きな注目を集めていた。打ち上げに先立ち、03年5月には「星の王子様に会いに行きませんか」というキャンペーンが行われた。これは、小惑星着陸に際し、目標地点を定めるターゲットマーカーにはやぶさを支援する人々の名前を刻むというもの。キャンペーンには世界各国から80万人を超える応募があり、名前が刻まれたマーカーは無事イトカワに届けられた。
はやぶさは、将来の本格的な「サンプルリターン・ミッション」を達成するために必要な技術を開発し、それが使えることを実証するための探査機。サンプルリターンとは地球以外の天体から採取した試料を持ち帰ることをいう。「はやぶさ」ミッションの主な目的は、このために必要なイオンエンジン、自律誘導航法、小惑星のサンプル採取、地球スイングバイ、再突入カプセルについての技術を実証することにあった。はやぶさによるイトカワからのサンプルリターンは、月以外の天体の固体表面からのものとしては人類初となる。太陽系の初期のころの物質を知る上で、小惑星は惑星誕生期の記録を比較的よくとどめていると考えられ、はやぶさの成果が期待されていた。
イオンエンジンは、イオン(電気を帯びた原子団)の加速を利用して推力を得るエンジンで、燃料の重量に比べて大きな推力を得られることから、旧来のヒドラジン系の燃料に代わって人工衛星や探査機に採用されてきている。はやぶさが搭載するイオンエンジンは、マイクロ波放電を利用する方式としては初めて実用化されたものである。実際の運用では様々なトラブルに遭遇したが、トラブル発生とその対応策を探ること自体が実験目的でもあり、巧みな操作で多くの問題を解決してきたことが高く評価されている。
はやぶさの設計は、イトカワで採集した資料を入れたカプセルのみを回収し、本体の探査機はさらに運行を続けることも可能なものだったが、帰還時の安定性に問題があったため、大気圏外でカプセルを分離後、本体も再突入した。カプセルは成層圏でパラシュートを開き、オーストラリア南部のウーメラ区域に着陸し無事回収された。
数々の苦難を乗り越え、満身創痍(そうい)になりながらも長期にわたる航行を続け、最後には本体は燃え尽きながらもミッションを果たしたことから、「あきらめなければ、いつか必ず願いはかなう」ことの表象として人々の共感を呼んだ。

(金谷俊秀  ライター / 2010年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「はやぶさ」の意味・わかりやすい解説

はやぶさ
Hayabusa

宇宙航空研究開発機構 JAXAの宇宙科学研究所 ISASが開発した小惑星探査機。打ち上げ前の名称は MUSES-C。2003年5月9日に鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられ,2005年11月に小惑星イトカワに到達,2010年6月13日にオーストラリアのウーメラに着陸して地球に帰還,月以外の天体に着陸して帰還した世界初の探査機となった。技術的困難に遭遇しながらも,イトカワについて多くの貴重な科学的データを持ち帰った。はやぶさは惑星間移行軌道へ投入されたのち,4個の小型イオンエンジンによって推進された。可視分光撮像カメラ AMICA,赤外線・X線分光計(→赤外線分光計),レーザー高度計 LIDARなどの装置を搭載。イトカワに接近しながら,その自転軸を明らかにするため,可視分光撮像カメラによって画像を撮影した。2005年11月4日,初めての着陸リハーサルを行なったが,データ信号不良のため中止された。同月 12日の 2度目のリハーサルでは,イトカワの表面から 55m以内にまで接近したが,そこから上昇を始めたのち小型探査ロボット「ミネルバ」が誤って分離され,宇宙へと放出されてしまった。同月 19,25日の 2回,イトカワの表面への着陸とそこからの離陸に成功。地球帰還の際に,はやぶさは小惑星の微粒子を入れた 1個のカプセルを地上に投下した。カプセルからはイトカワの 0.01mmに満たない 1500粒ほどの微粒子が見つかり,分析の結果,最も一般的な隕石である普通コンドライトはイトカワのような S型小惑星に由来すること,またイトカワは太陽風宇宙線の影響を受けてゆっくりと風化していることが明らかとなった。2014年12月3日,C型小惑星リュウグウの探査およびサンプル採取を目的に,後継機『はやぶさ2』が鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。

ハヤブサ
Falco peregrinus; peregrine falcon

ハヤブサ目ハヤブサ科。全長は雄 38cm,雌 51cm。翼開張 84~120cm。南極大陸を除くほぼ全世界に分布し,16亜種がある。成鳥は背面が灰色がかった青黒色から黄緑色がかった灰色まで変異がある。下面がクリーム色で,胸から腹に暗色の横斑が密にあり,眼下から頬にかけてひげのように見える黒い模様がある。幼鳥は成鳥より褐色に富み,胸から腹の暗色の斑が縦に入る。日本にも亜種のハヤブサ F. p. japonensis留鳥として生息するほか 3亜種の記録があるが,シマハヤブサ F. p. furuitii は過去 50年以上記録がない。山地や谷間,海岸などの岩場の近くにすみ,巣はつくらず断崖の岩のくぼみに 2~3卵を産む。おもな獲物は鳥類で,先のとがったをはばたいて高速で飛び,高空から飛んでいる鳥めがけて急降下し,ときには自分よりも大型の鳥を蹴落として捕える。そのときの時速は 320kmほどとみられるが,389kmという記録もある。「きっ,きっ,きっ」と鋭い声で鳴く。3000年も前から鷹狩に使われてきた。(→タカ猛禽類

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百科事典マイペディア 「はやぶさ」の意味・わかりやすい解説

はやぶさ

日本の小惑星探査機。2005年5月,宇宙航空研究開発機構(JAXA,打上げ時は文部科学省宇宙科学研究所)が打ち上げた。探査機の重さは燃料を含め510キログラム。イオンエンジンによる微小な加速を蓄積する航法で2005年9月に小惑星イトカワに到着,種々の観測を行い,データを地球に送信,同年11月に着陸及び離陸に成功した。離陸後,地球への帰還軌道への進入,軌道制御には成功したが,着陸時にいくつかの機能が故障し予定の2007年6月に地球へ帰還することが困難になった。着陸時におけるイトカワの表面物資採取装置が稼働したかどうかは不明だった。その後,燃料漏れ,探査機の姿勢喪失,太陽電池発生電力の低下,リチウムイオン電池の放電など,さまざまな困難が生じたが,それらを克服して,2010年6月13日に地球に帰還した。電波による指令が遅延する超遠距離の自動航法システムの作動が成功し,長期にわたる複雑かつ柔軟な運航が可能であることを証明した。帰還カプセルに入っていた微粒子はイトカワのものと判明,小惑星粒子の採集は世界初である。2011年には,2014年に向けて〈はやぶさ2〉打ち上げのプロジェクトも発表された。2014年12月,種子島宇宙センターから打ち上げられた〈はやぶさ2〉は目標の小惑星1999 JU3を探査した後,2020年頃の地球帰還を目指す。→宇宙航空研究開発機構
→関連項目惑星探査機

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